そういえば、このモデルでは遺産を残すことは考えていませんが…

ここまで、基本となる異質性を考慮しないモデルを整理してきましたが、1つ重要なこととして、この家計は基本的に遺産を残すことを考えていないということがあります。こうした(ライフサイクル仮説に従う)家計の特徴は、一般に“利己的”と言われていますが、ホリオカ[2008]は、こうした利己的な家計は、人生の最後に資産が使いきれずに残った場合か、もしくは老後の世話などを受けた場合にその見返りとして、遺産を残すことが考えられると説明しています。

さらにホリオカ[2008]では、意識的に遺産を残す(つまりライフサイクル仮説からは逸脱した行動をとる)家計のパターンとして2つ挙げています。1つ目が、親が子の幸せを願って、利他主義的な動機(愛情)から遺産を残す場合で、もう1つが、子が家業を継いでくれた場合に遺産を残す(こうしたケースは、王朝モデルといわれています)という場合です。ホリオカ[2008]では、日本について分析し、利他主義に従う家計が一定数いると分析しています(日本に関する同様の指摘は、林[1992]、Hayashi[1995]、濱秋・堀[2019]などもあります)。また、Horioka[2014]では、日・米・中・印の分析から、これらの国では、いずれも王朝モデルに従う家計の割合が最も少なくなるという結果を報告しています(さらにこの論文では、4ヵ国のうち、日本が最も利己的な家計の割合が大きくなるとも指摘しています)。

特に利己的な家計とそれ以外の家計とでは、消費行動に異質性が生じる可能性は考えられます。

また、ホリオカ[2020]:「日本でライフ・サイクル仮説は成り立っているか?」では、こうした遺産動機や、ほかにも退職後に備えた貯蓄動機といった、ライフプランの中での貯蓄行動などについて、自身の過去の研究結果などを基に、日本と他国の比較を行い、日本については、他国対比で比較的ライフサイクル仮説に従っているとする結果を報告しています(因みに、この中では、資金面に関する制約の影響も調査しており、これについても日本は他国よりも弱く、比較的ライフサイクル仮説に従っていると指摘しています)。

Hayashi, Fumio (1995). “Is the Japanese Extended Family Altruistically Linked? A Test Based on Engle Curves,” Journal of Political Economy, 103(3), 661-674.

Horioka, Charles Yuji (2014). “Are Americans and Indians More Altruistic than the Japanese and Chinese? Evidence from a New International Survey of Bequest Plans,” Review of Economics of the Household, 12(3),411-437.

濱秋純哉・堀雅博(2019)、「高齢者の遺産動機と貯蓄行動:日本の個票データを用いた実証分析」、『経済分析』200、内閣府経済社会総合研究所、11-36頁

林文夫(1992)、「日本の貯蓄率について–最近の研究結果のサーベイ」、『金融研究』11(3)、日本銀行金融研究所、1-16頁

ホリオカ・チャールズ・ユウジ(2008)、「遺産と格差」、『季刊社会保障研究』44(3)、307-315頁

ホリオカ・チャールズ・ユウジ(2020)、「日本でライフ・サイクル仮説は成り立っているか?」、Discussion Paper No. 1074、The Institute of Social and Economic Research、Osaka University

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