異時点間代替効果の異質性について:流動性制約(Liquidity Constraint)

ちょっと話がそれた気がしますが、それでは改めて、個別のメカニズムについてみていこうと思います。まず、異時点間代替効果についてですが、これが家計間で異なるということはあるんでしょうか?ということで調べてみると、やはりあって、その中でも代表格として扱われているのが、流動性制約と予備的貯蓄の2つでした。

このうち流動性制約というのは、以前からみているように、家計はライフサイクル仮説に従って、生涯の支出を平準化するわけですが、このためにはお金がない時期には借り入れが必要になる、ということになりますが、仮に何らかの理由でこれが制限されている場合には、十分な消費を行うことができないということになります。この点については、例えば阿部[2011]の7.3、式(7.29)付近で理論的に分析しています。

これは金融政策の波及メカニズムの1つである異時点間代替効果にも影響があり、例えば実質金利が低下する場合を考えると、現在の消費を喚起する効果がうまれることになりますが、仮に流動性制約により借り入れが制限されている、もしくは全く借り入れができないという場合には、この効果は不十分となる可能性があります。また実質金利が上昇する場合には、今度は現在の消費を抑えて貯蓄に回す効果がうまれることになりますが、流動性制約にある状況では、そもそも消費が抑えられているため、この効果は流動性制約に陥っていない、これまでみてきたような家計と比べると、やはり小さくなると考えられます。

因みにこうした制約については、Heller and Starr[1979]が各期の資産残高が必ず0以上になるとする制約条件を考え、Zeldes[1989]がこれを流動性制約と呼びました。また、例えば耐久財の支出を考えると、厳密な借り入れゼロの制約よりも、若干の借入を費用を支払うことで可能とする緩い流動性制約の方が適していると考えられますが、Jappelli[1990]は米国について、或る一定の金額まで借入れを可能とする流動性制約に従う家計が、全体の約 19%おり、比較的若い世代に多いことを示しています。

さらに、Zeldes[1989]ではこうした条件を流動性制約の定義としましたが、それ以前にも、例えばStockman[1981]では、家計が財を購入するためには期初に保有している貨幣から支払わなければならないとする、Cash-in-advance制約を流動性制約と呼んでいたり、Hayashi[1987]では流動性制約が不完全なローン市場の存在に基づくとして、借入金利の高率化も流動性制約をもたらすと指摘しています。

最後の点に関連する研究として、Pissarides[1978]でも、借入費用が借入金額に制約を課すとする考えのもと、私的な借入金利が公的債券の金利よりも割高になるとする制約条件を追加して、ライフサイクル消費の理論を展開しています。また、Bolhuis et al.[2024]では、米国が2023年入り後、インフレ率が前年比で低下し、失業率も低い水準にある中で、有名な消費者の景況感・雇用状況・所得に関するマインド指標である、ミシガン大学消費者信頼感指数が落ち込んだままとなったことをとりあげ、この原因として、金利の大幅な上昇が借入費用を引き上げ、消費者が経済的圧迫を感じた可能性がある(インフレ率の計測に用いる消費者物価指数(CPI)には、こうした費用の項目は含まれていない)と指摘しています。

Bolhuis, Marijn A., Judd N. L. CramerKarl Oskar Schulz, and Lawrence H. Summers(2024).”The Cost of Money is Part of the Cost of Living: New Evidence on the Consumer Sentiment Anomaly.”NBER Working Paper No.32163.

Hayashi, Fumio(1987), “Tests for Liquidity Constraints: A Critical Survey and Some New Observations,” in Truman F. Bewley, ed., Advances in Econometrics, Fifth World Congress, Vol. II,Cambridge Univ. Press, pp. 91-120.

Heller, Walter Perrin and Ross M. Starr(1979).”Capital Market Imperfection, the Consumption Function, and the Effectiveness of Fiscal Policy.”Quarterly Journal of Economics,93(3), 455–463.

Jappelli,Tullio(1990).”Who is Credit Constrained in the U. S. Economy?”Quarterly Journal of Economics,105(1), Pages 219–234.

Pissarides, Christopher A.(1978)”Liquidity Considerations in the Theory of Consumption.”Quarterly Journal of Economics, 92(2),279–296.

Stockman, Alan C.(1981).”Anticipated Inflation and the Capital Stock in a Cash-in-advance Economy.”Journal of Monetary Economics,8(3),387-393.

Zeldes, Stephen P.(1989)”Consumption and Liquidity Constraints: An Empirical Investigation.”Journal of Political Economy,97(2),305-346.

阿部修人(2011)、『家計消費の経済分析』、一橋大学経済研究叢書、岩波書店

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