ファンダメンタルな要因に起因しない期待の変動(ショック)がもたらす内生的な景気サイクル

今回はもう1つ、以前も触れたセンチメントに関する研究で面白いものがあったので、整理したいと思います。Brianti and Cormun(2024)では、米国の経済の専門家への経済予測調査(Survey of Professional Forecasters:SPF)のデータから、技術成長やそれに対する期待とは無関係なサプライズショックを抽出し、プラスの期待ショックが米国の実質GDP、消費、労働時間、設備投資の増加とその後の(長期トレンドを下回る)縮小、つまり好況と不況のダイナミクス(Boom-bust dynamics)をもたらすことを示しています。

一般に景気循環というのは、1つのショックで好況と不況のサイクルが起こるという考え方をすることはなく、それこそ以前の投稿(「ナラティブとマクロ経済学(2024/09/06)」)で紹介したFlynn and Sastry(2024)でも、”楽観主義のナラティブが90年代のドットコムバブルと2000年代の住宅バブルを煽り、崩壊と絶望のナラティブが、それぞれのその後の危機を引き起こす一因となった”としています。

ただその一方で、内生的な景気循環サイクルに関する研究も散発的にではありますが行われており、近年ではBeaudry, Galizia, and Portier(2020)が、米国経済の分析などを通して、こうしたサイクルの存在を指摘しています(リミットサイクルと呼ばれる非線形系でみられるサイクルで、非振動的な入力のみが加わる場合でも、その系自体の特性により系内部で非振動入力が振動に変換されるという自励振動(有名な例は真空管を使用した電気回路で発見された、緩和振動と呼ばれる安定的な振動現象や、人の心臓の拍動の日周リズムなど)であることが特徴です)。また、日本の文献では楡井(2023)が扱っています。ここでは、設備投資や物価水準、投資家による資産への投資といったことに関するミクロなショックが、各主体間の相互作用を通じて波及し、マクロレベルの内生的な変動がおこるとしており、例えば設備投資ではある企業の設備投資行動が他の企業の設備投資行動を誘発したり、物価についても、マクロの物価水準に追随して各企業が価格を改定しようとするが、しかし価格の硬直性があるような場合、離散的な価格改定や他企業との相互作用による各企業の改定のタイミング・価格改定幅の大きさの変動が、時には大きなマクロの物価変動を生み、また別の時にはそうはならないということがおこることで、マクロの物価水準に確率的な振動が生じ、資産市場でも平均的な投資家の行動に各投資家が追随する行動などを通じて、マクロレベルでの振動がおこるとしています。

因みに、論文(Brianti and Cormun(2024))ではモデルを用いた分析から、内生的なサイクルが生じるメカニズムについて、技術成長やそれに対する期待とは無関係なセンチメントのショック(正)が主導する場合、家計は将来よりも現在支出することを優先するため、最初は株価が上昇し、企業の資金面の制約も緩和されるが、こうした資産の購入は、その後家計による将来の景気後退を見越した資産の売却にあい、企業は資金面の制約も厳しくなるため、景気後退が生じると説明しています。また、その一方で、技術ショックに起因した株価の上昇の場合には、このようなことは生じないという結果も報告しています。

このほか、論文(Brianti and Cormun(2024))ではロバストチェックとして、技術ショック以外にも金融政策ショック(Romer and Romer(2004)、Wieland(2021))、軍事費ショック(Ramey(2011))、予想された税ショックと予想外の税ショック(Mertens and Ravn(2012))、石油価格ショック(Kilian(2008))、金融面の不確実性ショック(Ludvigson, Ma, and Ng(2021))も制御した分析を追加し、同じ結果が得られることを確認しています。

Beaudry, Paul, Dana Galizia, and Franck Portier(2020).”Putting the Cycle Back into Business Cycle Analysis.” American Economic Review, 110 (1),1–47.

Brianti, Marco, and Vito Cormun(2024).”Expectation-driven Boom-bust Cycles.” Journal of Monetary Economics,146,103575.

Flynn, Joel P., and Karthik Sastry(2024).”The Macroeconomics of Narratives.”NBER Working Paper No.32602.

Kilian, Lutz(2008).”Exogenous Oil Supply Shocks: How Big Are They and How Much Do They Matter for the U.S. Economy?” Review of Economics and Statistics,90(2), 216-240.

Ludvigson, Sydney C., Sai Ma, and Serena Ng(2021).”Uncertainty and Business Cycles: Exogenous Impulse or Endogenous Response?” American Economic Journal: Macroeconomics, 13 (4),369–410.

Mertens, Karel, and Morten O. Ravn(2012).”Empirical Evidence on the Aggregate Effects of Anticipated and Unanticipated US Tax Policy Shocks.” American Economic Journal: Economic Policy, 4 (2): 145–181.

Ramey, Valerie A.(2011) “Identifying Government Spending Shocks: It’s all in the Timing*.” Quarterly Journal of Economics,126(1), 1–50.

Romer, Christina D., and David H. Romer(2004).”A New Measure of Monetary Shocks: Derivation and Implications.” American Economic Review, 94 (4),1055–1084.

Wieland, Johannes(2021).”Updated Romer-Romer Monetary Policy Shocks.” Ann Arbor, MI: Inter-university Consortium for Political and Social Research [distributor], 2021-03-23. https://doi.org/10.3886/E135741V1.

楡井誠(2023)、「マクロ経済動学-景気循環の起源の解明」、有斐閣

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