景気循環に関する研究

今回はもう1つ、景気循環についていくつか研究をみてみたいと思います。まず最初に、ユーロ圏の景気循環について分析したRodriguez Palenzuela et al.(2024)をみてみようと思います。ここでは景気循環の動向の分析に加えて、各々の期間について、どういった要因が景気循環を引き起こしているのかを分析しています。

分析の結果としては、一時的な技術ショックや稼働率、労働時間の調整が景気循環に影響を及ぼしていることや、時期によっては金融要因が寄与するとしています。期間別では、世界金融危機前の時期については金融要因や輸出要因のプラスの寄与があり、世界金融危機の際にはTFPや輸出要因、米国の金融要因がマイナスに寄与、その後はTFPや輸出要因がプラスに寄与したとしています。また、その後の欧州債務危機の際には金融要因がマイナスに寄与した後、金融政策のプラスの寄与が働いたことも指摘しています。因みに、Hirschbühl and Spitzer(2021)では米国についても分析しており、こちらについては、2001年の不況期に金融要因がマイナスに寄与したあと、一時TFP要因が主導する形でGDP成長率が高まり、その後TFP要因は小さくなったものの金融要因のプラス成長が続いた後で、最初にTFP要因による小さなマイナスがおきた後、金融要因による世界金融危機が発生したとしています。その後については、TFP要因で一時プラスとなったものの、成長が低迷していると分析しています。このほかRodriguez Palenzuela et al.(2024)ではさらに、非耐久財に比べて耐久財の支出の変動は、景気循環に大きな影響を及ぼすことも指摘しています。

もう1つ、景気循環に関連する面白い研究として、景気循環と経済成長の関連性を分析する、というものがあります。両者は、いわゆる新古典派総合において、価格の調整が十分ではない短期の世界ではケインジアンが成り立ち、長期の世界では古典派経済学が成り立つとする住み分けの下、別々に発展を遂げてきました(サミュエルソンが提起した新古典派総合の取組みについては、斎藤ほか(2016)のコラムを参照)。ただ、リアルビジネスサイクルモデルやニューケインジアンモデルのような新古典派的な枠組みを採用したモデルが生まれ、発展したことや、データからも両者の関連性が指摘されたこともあり、いろいろな研究が進められています。

例えば開発ほか(2017)では、米国、欧州主要国、南欧諸国の1970年代以降の実質GDPについて、概ね経済成長トレンドは安定している一方で、2008年の世界金融危機後については、実質GDPがそれ以前のトレンドを下回ったままとなっていると指摘しているほか、日本についても1992年頃に成長トレンドの傾きが変わって(低下して)いると指摘し、資産価格バブルの崩壊や金融危機といった景気後退ショックを通じて、景気循環と経済成長が相互連関する形で影響があらわれた可能性があるとしています。さらに、景気循環が経済成長に影響を及ぼす観点(労働市場・企業行動・財政政策など)と、逆に経済成長が景気循環に影響を及ぼす観点(技術進歩・人口動態)から、過去の研究のサーベイなどを行っています。

さらに陣内(2017)では理論的なモデルを用いた分析から、バブル崩壊によって不況が起こり、また、その後経済が成長軌道に戻った後も成長率が戻らないという結果を報告し、生産水準や成長率に、長期的な影響が生まれることを示しています。

このほか関連する研究としては、1990年代後半の日本の銀行危機や世界金融危機の影響を実証分析した研究で、危機前にハイレバレッジであった企業や現金保有が少なかった企業では、危機後の設備投資の回復が停滞するという指摘がされている(Imai and Sawada(2022)、Joseph,Kneer,and van Horen(2022)、Hattori et al.(2023))ほか、不動産担保への依存度が高いほど回復が遅くなるという指摘もあります(Ivashina et al.(2024))。また、メカニズムの説明としては情報の非対称性と不完備契約や過剰債務問題などがある(日本銀行調査統計局経済分析グループ(2001)、福田・粕谷・中島(2005))ほか、近年では、過去の金融危機局面において流動性不足に直面した経験のある企業は、GDP成長率等の将来予測に悲観的なバイアスがみられる傾向があるとする指摘(Koga and Kato(2017))もされています。

一方で村田(2019)では、日本の戦後の景気循環を分析し、アジア通貨危機以降の景気拡張期のGDPギャップがマイナス基調(もしくは0付近)にあるとしたほか、このようになった要因として、民間消費と民間設備投資の寄与率の低下、資本ストックの過剰状態、人口減少による住宅投資や耐久消費財支出などのクズネッツサイクル(建築需要などにより引き起こされる、20年程度の周期の景気循環)の振幅の縮小をあげています(因みに村田(2012)では、耐久消費財支出が民間住宅投資の動きに連動しておきることを示しています)。こうした過剰貯蓄、過剰資本ストック、人口減少は長期停滞論の特徴といえますが、これはつまり、開発ほか(2017)でも指摘している、経済成長(の停滞)が景気循環(の停滞)の要因となっていることを示唆していることになります。

政策面からは、例えばYellen(2016)が、総需要の持続的な不足が経済の供給サイドに悪影響を与えると考えられる場合、堅調な総需要とひっ迫した労働市場を伴う、いわゆる「高圧経済」を一時的に行うことで、企業の売上高が上昇し、将来の不確実性が低下することで、設備投資が増加するほか、労働市場でも、労働供給が高い水準を維持でき、加えて適切なジョブマッチングや高水準の研究開発費、新ビジネスのイノベーションを通じて労働生産性の水準・成長率が高く維持されることが考えられるとしています。また、金融政策や財政政策のスタンスにも影響する可能性があると指摘しています。ただその一方で、例えば緩和的な金融スタンスは、それが長すぎた場合には金融不安のリスクが生じたり、物価の安定を損なうといった、便益を上回るコストが生じる可能性もあるため、さらなる研究が必要であるとも指摘しています。

Hattori, Masazumi, Ryosuke Fujitani, Jouchi Nakajima, and Yukihiro Yasuda(2023).”Real Effects of Corporate Cash Holdings: Evidence from Japan.”RIETI Discussion Paper Series 23-E-084.

Hirschbühl, Dominik, and Martin Spitzer(2021).” International Medium-term Business Cycles.” ECB Working Paper No.2536.

Imai, Masami, and Michiru Sawada(2022).”Does a Financial Crisis Impair Corporate Innovation?” Wesleyan Economics Working Papers 2022-002.

Ivashina, Victoria, Ṣebnem Kalemli-Özcan, Luc Laeven, and Karsten Müller(2024).”Corporate Debt, Boom-Bust Cycles, and Financial Crises.”NBER Working Paper No.32225.

Joseph, Andreas, Christiane Kneer, Neeltje van Horen(2022).”All You Need is Cash: Corporate Cash Holdings and Investment after the Financial Crisis,” CEPR Discussion Papers 14199.

Koga, Maiko, and Haruko Kato(2017).”Behavioral Biases in Firms’ Growth Expectations.” Bank of Japan Working Paper No.17-E-9.

Rodriguez Palenzuela, Diego,Veaceslav Grigoraș, Lorena Saiz,Grigor Stoevsky, Máté Tóth, and Thomas Warmedinger(2024).” The Euro Area Business Cycle and its Drivers.” ECB Occasional Paper No.354.

Yellen, Janet L.(2016)”Macroeconomic Research After the Crisis.” speech at “The Elusive ‘Great’ Recovery: Causes and Implications for Future Business Cycle Dynamics” 60th annual economic conference sponsored by the Federal Reserve Bank of Boston, Boston, Massachusetts, October 14.

開発壮平・古賀麻衣子・坂田智哉・原尚子(2017)、「景気循環と経済成長の連関」日本銀行ワーキングペーパーシリーズNo.17-J-8

齊藤誠・岩本康志・太田聰一・柴田章久(2016)、「新版 マクロ経済学(Macroeconomics: Theory and Policy 2nd ed)」、有斐閣

陣内了(2017)、「景気循環理論と内生的成長理論との統合―研究動向と日本経済への適用可能性―」、経済研究Vol. 68, No. 4一橋大学経済研究所

日本銀行調査統計局経済分析グループ(2001)、「不良債権問題の経済学-理論と実証分析の展望-」、日本銀行調査統計局経済分析グループ

福田慎一・粕谷宗久・中島上智(2005)、「非上場企業の設備投資の決定要因:金融機関の健全性および過剰債務問題の影響」、日本銀行ワーキングペーパーNo.05-J-2

村田治(2012)、「現代日本の景気循環」、日本評論社

村田治(2019)、「長期停滞と景気循環」、経済学論究、72(4)、関西学院大学、1-29

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