もう1つ脱線をします-長期停滞について3

では、まず少子高齢化についてみてみます。このテーマで注目されているのが、いわゆる現役世代(15歳~64歳)である生産年齢人口の動態がどうなのかということだと思います。

この生産年齢人口については、経済成長局面でも非常に重要視されていて、日本の経済成長について分析した深尾(2020)でも、戦後の高度成長期の経済成長の要因の一つとして、団塊の世代が1960年代に労働市場に入ってきたことを指摘し、その後1970年代に安定成長期に入ったことについても、この世代が壮年に達したことを理由の一つにあげています。因みに、高度成長期の労働力の流入は一次産業以外を中心としたもので、これは1次産業の労働力の割合の低下をもたらしつつも経済成長の一因となったわけですが、1970年代に入るとこの要因も一巡し、経済が安定成長期に入る一因になったとしています。

一方で、近年の日本の長期停滞の議論の中では、この団塊の世代の退職を始めとした、比較的人口が多い層が退職していくことが経済に影響を及ぼしているとされています。労働力人口が減ってしまうと、仮に現役世代がこれまでと同じように働いていても、国としての生産は減ってしまうし、ビジネスダイナミズムも停滞してしまう、というものです。これは主に高齢化が原因といえると思いますが、こうした問題は、日本以外の先進国でも問題となっています。

消費者という観点でも、高齢層になると現役世代と比べて消費が低下するという分析がある他(Attanasio et al.(1999)、Gourinchas and Parker(2002)、Fernandes-Villaverde and Krueger(2007)、Aguiar and Hurst(2013)、Kitao and Yamada(2023))、高齢層特有の問題として、資産を取り崩して消費に回す傾向が、ライフサイクル仮説が指摘する水準よりも小さいことも言われており、この要因には、基本的なライフサイクル仮説のモデルでは遺産動機を考えていないので遺産動機や、ライフサイクル仮説では保有する資産を最終的にすべて使いつくすという考え方をするが、現実として、持ち家については、高齢者はそれを売って消費に回すことはせず、生涯そこに住み続ける傾向が強いということ、さらには予備的貯蓄動機があるとしています(Eric,John, and McGee(2023))。遺産動機については、将来的な経済の不確実性から、自身の子や孫の将来を案じて、親世代がより多くの遺産を残そうと考える傾向があることも指摘されています(濱秋・堀(2019))。また、高齢になると健康リスクの高まりもあって、旅行や外食などの裁量的支出に対する効用が、若い世代と比べて小さくなることや、新商品を好むような傾向がなくなってくることも指摘されています(Blundell et al.(2024)、Bornstein(2021))。

消費ということで言えば、もちろん高齢化が進むことで発展してくる分野もあって、例えば医療・介護といった分野があると思います。ただ、日本については、これらの分野の生産性が低い状況にあり(これは国によって違う)、このまま労働力がこういった分野に移ったとしても、日本全体の生産性は上向かないため、こうした分野の生産性の向上が必要となっています(吉村(2023))。

ここで、長期停滞という言葉に一度立ち返ると、この言葉は以前紹介したハーバード大学のサマーズ教授が最初に言い出したわけではなく、同じハーバード大学のアルヴィン・ハンセン教授が1930年代に使ったのが最初となっています(Hansen(1934,1939))。この人は米国にケインズ主義を導入したことで有名なのですが、1930年代初頭にハンセン教授は、米国経済は構造転換を経験したと指摘し、主な要因が人口動態にあるとしました。考え方としては、米国の人口増加は鈍っているが、労働力に加わる人口が少なくなれば、新しい工場やプラント、機械、住宅の需要が少なくなり、また、貯蓄の供給が資本需要を上回るとしています。

このハンセンの主張は、師匠のケインズに支持されました(Keyenes(1937))。ケインズも英国の人口は減少に向かいはじめると考え、国の繁栄の維持を困難にする可能性があると捉えていました。ケインズは、これに対する対策として、金利を引き下げて金融面の制約を緩和させるべきだとしていました。一方で、ジョージ・ターボやヨーゼフ・シュンペーターはこうした考え方に否定的な指摘をしていました(Terborgh(1950)、Shumpeter(1942))。結局、第二次世界大戦後の米国経済をみると、経済は停滞せず、非常に大きく成長を遂げたことから、ハンセンの予想は悲観的過ぎたという結果となったのですが、このエピソードからも、人口動態が経済成長を考える上で重要な要因であることが伺えます。

実際にマクロ経済にどのような影響があるのかという分析も行われており、一番多いのは、経済成長率は低下し、物価、金利も低下するというものですが、異なる指摘をする研究もあり、例えばGoodhart and Pradhan(2020)では、経済成長率はやはり低下するものの、物価と金利については上昇するとしています。ここで言っていることとしては、労働力が減るということは労働者の力が強くなるということであり、賃金が上昇し、そのため物価も上昇する、さらに長寿化に伴う高齢者の医療支出の増加が貯蓄を減らすことや、企業が労働節約的な設備のための投資を行うことにより、金利も上昇するとしています。

労働力不足の悪影響を食い止めるような動きも2つ触れておこうと思います。1つが、女性と高齢者の労働参加が増加傾向にあるというものです。因みに、日本におけるこの層の労働参加の特徴としては、多くが非正規雇用の形で働いており、Goodhart and Pradhan(2020)が指摘するような賃金上昇圧力が起こりにくいということが言えます(川口・原(2017))。また、高齢者の雇用の拡大については、若年者の採用を抑制する可能性も指摘されていますが、これについてはそのことを否定する研究結果もあり、現在も議論が続いています(川口(2017))。

ただ、実はこの要因については、そろそろ限界が近づいているという指摘もあります(尾崎・玄田(2020))。そうした中、もう1つの流れが先ほども少し触れた企業の労働節約的な設備投資で、具体的にはオートメーション化の促進やAIの活用といった取組になります。実際に、高齢化が進むことでオートメーション化がより進むことや、そのことが経済成長にプラスの影響を及ぼす可能性も指摘されています(Acemoglu and Restrepo(2017、2022))。ただ、この点については少し長くなるので、また別で整理したいと思います。

さて、ここまで人口動態(少子高齢化)の影響についてみてきましたが、もう一つの要因である経済格差の拡大についてもみてみましょう。経済格差が経済成長にどのような影響を及ぼすのかということについては、古くから経済格差が小さいほうが経済成長を促進するという考えと、経済格差が大きい方が経済成長を促進するという考えが示されています。前者については、①所得格差が拡大すると、税や社会保障を通じた再分配政策が行われやすくなり、これに伴う累進的な所得課税などが、労働者の働くモチベーションを下げ、経済成長が停滞するというメカニズム(Persson and Tabellini(1994))(因みにここでは、低所得者の増加は、多くの国民の要望として再分配政策が求められるようになり、そのためこうした政策が国として推進されやすくなると考えています)、②経済格差が大きい場合、人々は利益集団を組織して自身の利益を増やすための活動を行ったり、議会を通じた仕組みを通さずに示威行動や実力行使などに訴えることが起こりやすくなって、社会や政治の安定性が失われやすくなり、こうしたことが政治や法制度をめぐる不確実性の増加や市場取引や労使関係をめぐる混乱を通じて、国外から国内への投資を妨げたり、経済成長を阻害するというメカニズム(Alesina and Perotti(1996))、③所得格差が拡大すると、低所得者が保有する資産は十分ではなく、人的資本を蓄積するための教育投資が十分に行われないことから、経済成長が阻害されるというメカニズム(Galor and Zeira(1993))が指摘されています。一方、後者については、所得格差が拡大してマクロの貯蓄率が高まると、国内の投資が活発化し、経済成長が促されるといった指摘がされています(Barro(2000))。

実証的にも、所得格差の縮小が経済成長を促進するとする指摘(Persson and Tabellini(1994)、Alesina and Rodrik(1994)、Birdsall,Ross, and Sabot(1995))と、所得格差の拡大が経済成長をもたらすとする指摘(Li and Zou(1998)、Forbes(2000)、Barro(2000))がされてきましたが、近年では、所得格差が小さいほうが経済成長をもたらすとする指摘や、再分配政策が経済成長を促進すること、人的資本投資の必要性がとりわけ高い子育て世帯や若年層への再分配政策が効果的であることを指摘した研究結果が示されています(Ostry,Berg, and Tsangarides(2014)、Cingano(2016)、Dabla-Norris et al.(2015))。

Acemoglu, Daron, and Pascual Restrepo(2017).”Secular Stagnation? The Effect of Aging on Economic Growth in the Age of Automation.” American Economic Review, 107 (5),174–79.

Acemoglu, Daron, Pascual Restrepo(2022).”Demographics and Automation.” Review of Economic Studies, 89(1), 1–44.

Aguiar, Mark, and Erik Hurst(2013).”Deconstructing Lifecycle Expenditure.”Journal of Political Economy,121(3),437-492.

Alesina, Alberto, and Roberto Perotti(1996).”Income Distribution, Political Instability, and Investment.”European Economic Review,40(6),1203-1228.

Alesina, Alberto, and Dani Rodrik(1994).”Distributive Politics and Economic Growth.”Quarterly Journal of Economics,109(2),465-490.

Attanasio, Orazio P., James Banks, Costas Meghir, and Guglielmo Weber(1999).”Humps and Bumps in Lifetime Consumption.” Journal of Business and Economic Statistics,17(1),22-35.

Barro, Robert J.(2000)”Inequality and Growth in a Panel of Countries.”Journal of Economic Growth,5(1),5-32.

Birdsall, Nancy, David Ross, and Richard Sabot(1995). “Inequality and Growth Reconsidered: Lessons from East Asia.” World Bank Economic Review, 9(3), 477–508.

Blundell, Richard, Margherita Borella, Jeanne Commault, and Mariacristina DeNardi(2024).”Old Age Risks, Consumption, and Insurance.”American Economic Review,114(2),573-613.

Bornstein, Gideon(2021).”Entry and Profits in an Aging Economy: The Role of Consumer Inertia.”mimeo.

Cingano, Federico(2014).”Trends in Income Inequality and its Impact on Economic Growth.”OECD Social, Employment and Migration Working Papers No.163.

Dabla-Norris, Era, Kalpana Kochhar, Nujin Suphaphiphat, Frantisek Ricka, and Evridiki Tsounta(2015).” Causes and Consequences of Income Inequality: A Global Perspective.”IMF Staff Discussion Note 15/13.

Eric, French, John B. Jones, and Rory McGee(2023).”Why Do Retired Households Draw Down Their Wealth So Slowly?”Journal of Economic Perspectives,37(4),91-114.

Fernandez-Villaverde,Jesus, and Dirk Kruger(2007).”Consumption over the Life Cycle: Facts from Consumer Expenditure Survey Data.”Review of Economics and Statistics,89(3),552-565.

Forbes, Kristin J.(2000).”A Reassessment of the Relationship Between Inequality and Growth.”American Economic Review,90(4),869-887.

Galor, Oded, and Joseph Zeira(1993).”Income Distribution and Macroeconomics.”Review of Economic Studies,60(1),35-52.

Goodhart,Charles, and Manoj Pradhan(2020).The Great Demographic Reversal: Aging Societies,Waning Inequality, and an Inflation Revival,Palgrave Macmillian.

Gourinchas, Pierre-Olivier, and Jonathan A. Parker(2002).”Consumption over the Life Cycle.”Econometrica,70(1),47-89.

Hansen, Alvin H.(1934).”Capital Goods and the Restoration of Purchasing Power.”Proceedings of the Academy of Political Science,16(1).

Hansen, Alvin H.(1939).”Economic Progress and Declining Population Growth.”American Economic Review,29(1),1-15.

Keynes, John M.(1937).”Some Economic Consequences of a Declining Population.” Population and Development Review,4(3),1978.

Kitao, Sagiri, and Tomoaki Yamada(2023).”The Time Trend and Life-Cycle Profiles of Consumption.”RIETI Discussion Paper No.23-E-036.

Li, Hongyi, and Heng-fu Zou(1998).”Income Inequality is not for Growth: Theory and Evidence.”Review of Development Economics,2(3),318-334.

Ostry, Jonathan D., Andrew Berg, and Charalambos G. Tsangarides(2014).”Redistribution, Inequality,and Growth.”IMF Staff Discussion Note 14/02.

Persson, Torsten, and Guido Tabellini(1994).”Is Inequality Harmful for Growth?”American Economic Review,84(3),600-621.

Schumpeter, Joseph A.(1942).Capitalism, Socialism and Democracy, London,111-119.

Terborgh, George(1950).The Bogey of Economic Maturity, Chicago Press.

尾崎達哉・玄田有史(2020)、「賃金上昇が抑制されるメカニズム」、『金融研究』第39巻第4号、日本銀行金融研究所、55~105頁

川口大司 編(2017)、『日本の労働市場 経済学者の視点』、有斐閣

川口大司・原ひろみ(2017)、「第7章 人手不足と賃金停滞の並存は経済理論で説明できる」、玄田有史編『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』、慶應義塾大学出版会

濱秋純哉・堀雅博(2019)、「高齢者の遺産動機と貯蓄行動:日本の個票データを用いた実証分析」、『経済分析』第200号

深尾京司(2020)、「世界経済から見た日本の成長と停滞」、岩波書店

吉村卓也(2023)、「地域における人手不足問題」、マンスリートピックNo.72、内閣府

コメントを残す