間隔があいてしまったので、本筋の話の方も少し進めておこうと思います。Auclert(2019)で示されている最後のチャネルが、資産構成の異質性チャネルというものです。家計は株式や住宅、債券など様々な形で資産を保有するわけですが、金融政策がこうした資産価格に影響を及ぼし、それによって家計の消費が変動するというチャネルです。金融政策と資産価格の変動の関係は資産によって異なっているため、人によって効果の大きさは変わってきます。
Adam and Tzamourani(2016)では、ユーロ圏の各国において、株価、住宅価格、債券価格をそれぞれ上昇(上昇の程度は同じくらい)させた場合に、純資産分布のジニ係数(資産格差)がどのくらい変化するかを調べ、ユーロ圏全体および各国のベースで、株価の上昇は僅かにジニ係数を拡大させ、一方で住宅価格の上昇はジニ係数をやや縮小させるとし、債券価格の上昇については、ジニ係数にほとんど影響がみられないと報告しています。
また、同じ資産であっても、金融政策に対する反応が異なるという場合もあり、有名なものに住宅価格があります。Beraja et al.(2019)ではグローバル金融危機時の量的緩和政策第一弾(QE1)が、住宅価格に影響を及ぼすことを通じて米国の家計消費にどのような影響を及ぼしたのかを分析していますが、グローバル金融危機の際には、景気後退の大きな地域ほど住宅価格の下落が大きかったのですが、QE1ではそういった地域の住宅価格はあまり戻らず、消費格差を拡大する方に寄与したという結果を報告しています。
住宅価格変動については、(地域の)住宅供給の弾力性の違い(地理的な制約などにより住宅を増やせない地域では、住宅価格が上がりやすい)が影響しているという指摘や、金融緩和政策と金融引き締め政策で異なるとする指摘もあります(Aastveit and Anundsen(2022)など)。
因みに余談ですが、近年の大規模資産購入政策の効果を分析したBoddin et al.(2024)では、債券を多く保有する家計が、債券価格が上昇すると、その期間収益が下がるため、資産ポートフォリオを不動産投資(賃貸住宅向け)に振り向け、これが賃貸利回りの低下を促すことや、金融リテラシーの高さや投資アドバイスが、こうした行動をさらに積極化させることも指摘しています(因みに、金融リテラシーを高める方法として、金融教育の役割が期待されていますが、この効果検証についてはKaiser and Lusardi(2024)を参照)。
以上が主な金融政策の波及メカニズムの説明ということになりますが、1つだけ、所得の増加の時もやりましたが、資産や負債の価値が変わることを通じたメカニズムでも、限界消費性向の話があり、実はこれも家計間で異質性があることが知られており、例えば欧米について分析したLehnert(2004)、Aladangady(2017)、Cooper and Dynan(2016)、Di Maggio,Kermani, and Majlesi(2020)といった研究があります。これらの研究では、流動性制約や予備的貯蓄動機が限界消費性向の異質性に影響を及ぼすと指摘しています。
因みにまたまた余談になりますが、資産価格変動とそれを通じた消費変動の異質性ということでいえば、グローバル金融危機時の米国の住宅価格の下落とマクロの消費動向を分析した研究でも、流動性制約にある家計の消費の落ち込みが非常に大きく、このことがマクロレベルでも非常に大きな役割を果たしたことが指摘されています(例えばGuerrieri and Iacoviello(2017)、Aruoba,Elul, and Ozcan(2022))。
Aastveit,Knut Are, and Andre K. Anundsen(2022).”Asymmetric Effects of Monetary Policy in Regional Housing Markets.”American Economic Journal: Macroeconomics,14(4),499-529.
Adam,Klaus, and Panagiota Tzamourani(2016).”Distributional Consequences of Asset Price Inflation in the Euro Area.”European Economic Review,89,172-192.
Aladangady, Aditya(2017).”Housing Wealth and Consumption:Evidence from Geographically-linked Microdata.”American Economic Review,107(11),3415-3446.
Aruoba,S. Boragan, Ronel Elul, and Sebnen Kalemli-Ozcan(2022).”Housing Wealth and Consumption: The Role of Heterogeneous Credit Constraints.”NBER Working Paper No.30591.
Auclert, Adrien(2019).“Monetary Policy and the Redistribution Channel.” American Economic Review, 109 (6), 2333–2367.
Beraja,Martin,Andreas Fuster,Erik Hurst, and Joseph Vavra(2019).”Regional Heterogeneity and the Refinancing Channel of Monetary Policy.”Quarterly Journal of Economics,134(1),109-183.
Boddin,Dominik, Daniel M. te Kaat, Chang Ma, and Alessandro Rebucci(2024).”A Housing Portfolio Channel of QE Transmission.”NBER Working Paper No.32211.
Cooper,Daniel, and Karen Dynan(2016).”Wealth Effects and Macroeconomic Dynamics.”Journal of Economic Survey,30(1),34-55.
Di Maggio, Marco, Amir Kermani, and Kaveh Majlesi(2020).”Stock Market Returns and Consumption.”Journal of Finance,75(6),3175-3219.
Guerrieri,Luca, and Matteo Iacoviello(2017).”Collateral Constraints and Macroeconomic Asymmetries.”Journal of Monetary Economics,90,28-49.
Kaiser,Tim, and Annamaria Lusardi(2024).”Financial Literacy and Financial Education: An Overview.”NBER Working Paper No.32355.
Lehnert,Andreas(2004).”Housing, Consumption, and Credit Constraints.”Finance and Economics Discussion Series No.2004-63.
コメントを残す