経済主体の異質性を考慮しない場合の最適な金融政策

ここで、折角なので、経済主体の異質性を考慮しない場合の最適な金融政策の話と、企業の異質性を考慮した場合の話についても整理してみます。今回はまず経済主体の異質性を考慮しない場合についてみていこうと思います。

最も基本的なニューケインジアンのモデルは、オイラー方程式(IS曲線)、フィリップス曲線、金融政策ルール(テイラールール)で決まります。また、最適な金融政策は、インフレ率の安定と産出水準のギャップ(価格が伸縮的な場合の産出水準からのギャップ)の縮小のバランスを考えます。教科書的なモデルの世界で最適な金融政策を考えた場合、例えば産出ギャップがゼロになることを目指すことは同時にインフレ率をゼロに安定させることに繋がり、逆にゼロインフレを目指した政策が、産出ギャップをゼロにすることにも繋がるという結果が得られます(Gali(2015)のChapter4やWalsh(2017)のChapter8を参照)。これがどういうことなのか、構成要素の一つであるフィリップス曲線をみてみると、

π=βEπ(+1)+α(y-y*)

となります。ここで右辺の(+1)は翌期のインフレ率という意味で、Eは今期における期待値という意味、y-y*は産出ギャップで、y*は伸縮価格における産出量となります。これをみるとわかりますが、この式が成り立つ以上、産出ギャップが0になることは、インフレ率がゼロで安定するということになります。こうした状況については、Blanchard and Gali(2007)がDivine Coincidence(神の偶然な一致)と名づけています。

ただ、こうした関係が実際の経済で成り立っているのかについては、懐疑的な指摘が多いです(例えばMankiew(2005))。また前回の投稿(「経済格差を考慮することが最適な金融政策に与える影響(2024/11/07)」)をみてみても、例えばMcKay and Walf(2023)では、基本的なニューケインジアンモデルに近い推計結果となっているように思われますが、一方でBhandari et al.(2021)やAcharya,Challe, and Dogra(2023)はインフレ率の安定と産出ギャップの縮小の間のトレードオフが生じており、結果は異なっていると考えられます。

そこで次に、経済主体の異質性を考えないモデルで、Divine Coincidenceが崩れることを指摘した研究をみてみたいと思います。Blanchard and Galí (2007)は、標準的なニューケインジアンモデルでDivine Coincidenceが成立するのは、これらのモデルに実質的 (つまり非貨幣的) な欠陥がないためであるとし、自身のモデルに実質賃金の硬直性を導入して、賃金が他の経済変数の変化 (たとえば、石油価格ショックなどの価格の変化や失業)に適応しない場合に、Divine Coincidenceが崩れることを示しています(同様の指摘はErceg,Henderson,Levin(2000)でもしています)。Kim (2016)は実質賃金の硬直性がない場合でも、非生産資産投入と労働の代替弾力性が1未満であれば、供給ショックによってインフレの安定化と産出ギャップの安定化の間にトレードオフが生じることを示しています。Alves (2014)では、金融政策がインフレ率をゼロで安定させる場合といった特別な場合にのみDivine Coincidenceが成立するとしています。

さらにBenigno and Woodford (2005)は、税率が時間とともに変化する場合や、時間によって変化する賃金マークアップを導入する場合に、Divine Coincidenceが崩れると指摘しています(前半部分についてはWoodford(2003)のChapter6でも指摘しています)。またRavenna and Walsh (2006)は、名目金利が企業の限界費用に影響を与えるようにモデルを拡張し、Divine Coincidenceが崩れると指摘しています。

それでは次に、企業の異質性を考慮した場合の最適な金融政策についてみてみようと思います。

Acharya,Sushant,Edouard Challe, and Keshav Dogra(2023).”Optimal Monetary Policy according to HANK.”American Economic Review,113(7),1741-1782.

Alves, S. A. L.(2014).”Lack of Divine Coincidence in New Keynesian Models.” Journal of monetary Economics, 67, 33-46.

Benigno, Pierpaolo, and Michael Woodford(2005).”Inflation Stabilization And Welfare: The Case Of a Distorted Steady State.” Journal of the European Economic Association, 3(6),1185-1236.

Bhandari,Anmol, David Evans, Mikhail Golosov, and Thomas J. Sargent(2021).”Inequality, Business Cycles, and Monetary-Fiscal Policy.”Econometrica,89(6),2559-2599.

Blanchard, Olivier, and Jordi Gali(2007).” Real Wage Rigidities and the New Keynesian Model.” Journal of Money, Credit and Banking,39(S1),35-65.

Erceg,C. J., D. W. Henderson, and A. T. Levin (2000).”Optimal Monetary Policy with Staggered Wage and Price Contracts.” Journal of Monetary Economics,46(2),281-313.

Gali,Jordi(2015).Monetary Policy, Inflation, and the Business Cycle second edition,Princeton university Press.

Kim, B.-G.(2016).”Supply Shocks and the Divine Coincidence.” Economics Letters, 145,210-213.

Mankiew, N. Gregory(2005).”Commentary: Separating the Business Cycle from Other Economic Fluctuations.” Proceedings – Economic Policy Symposium – Jackson Hole, Federal Reserve Bank of Kansas City, issue Aug, 187-192.

McKay,Alisdair, and Christian K. Wolf(2023).”Optimal Policy Rules in HANK.”mimeo.

Ravenna, F., and Walsh, C. E(2006). “Optimal Monetary Policy with the Cost Channel.”Journal of monetary Economics, 53(2), 199-216.

Walsh, Carl E.(2017).Monetary Theory and Policy fourth edition,MIT Press.

Woodford, Michael.(2003).Interest and Prices: Foundations of a Theory of Monetary Policy,Princeton University Press.

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