少し脱線-景気循環理論について9

産業や企業のミクロショックとマクロ経済との関係性について、もう少し研究をみていきたいと思います。di Giovanni and Levchenko(2012)では、過去数十年間にわたって、OECD加盟国とOECD非加盟国との間で、実質一人当たりGDP成長率の標準偏差が2.5倍異なる(OECD非加盟国の方が高い)とし、多国間・複数セクター、また企業の分布が前回みたべき分布になるとするモデルを開発して、その原因について分析しています。

モデルから得られる含意は主に2つあり、1つ目は、規模の大きな国と小さな国とで比較した時に、小さい国の方が企業数が少なくなるため、その国の最大規模の企業固有のミクロショックがマクロ経済に及ぼす影響がより大きくなるというもので、世界最大の米国に比べて、規模の小さい南アフリカやニュージーランドでは、マクロのボラティリティが2倍程度大きくなるとしています。

もう1つは貿易の自由化の影響についてで、論文では、貿易の自由化は国のGDPのボラティリティを高めるとしています。メカニズムとしては、国が貿易を自由化すると、最も規模が大きく・生産性の高い企業が好んで輸出を行い、一方で小規模企業は縮小または消滅してくため、大企業のミクロショックがマクロ経済に及ぼす影響が大きくなるというもので、こうした影響は全ての国でみられると考えられるものの、規模の小さな国ほど、影響が大きくなるとしています。論文では仮に自給自足経済をする場合と比較をする試算を各国について行い、日本や米国のような規模の大きな国では、自由化によってGDPのボラティリティが1.5~3.5%高まるだけで済む一方、南アフリカやニュージーランドでは約10%程度高まるとしています。

Carvalho and Gabaix(2013)では、米国経済のマクロレベルのボラティリティと、ミクロショックの関係を分析しています。論文では、1960年から1990年にかけた長期的なスパンでみた時に、マクロレベルのボラティリティが低下傾向にあったと指摘しています。そして、このような傾向になった理由について、米国において強い影響力を持っていた、建設、一次金属、金属加工製品、機械(コンピュータを除く)、自動車といった一握りの重工業部門が衰退していったことによって、結果的にそれまでそうした産業のミクロショックが強く影響していたものが、徐々になくなっていったためであるとしています。また、70年代から80年代にかけて、マクロのボラティリティの急激な上昇・低下という現象もみられましたが、これについては石油・ガス採掘、石油・石炭製品といったエネルギー関連セクターが、石油価格の上昇・下落に伴って大きく成長・衰退をみせたことで、成長期にこうした産業のミクロショックの影響力が高まり、衰退期に影響力が低下したため(ボラティリティの低下という話については、さらに既に説明した重工業の長期的な衰退の影響も加わる)としています。さらに90年代半ば以降については、マクロ経済のボラティリティが上昇したと指摘し、その原因について、預金取扱機関、非預金取扱金融機関 (証券サービスおよび投資銀行を含む)、保険といった金融関連セクターの影響力が高まり、こうした産業のミクロショックがマクロ経済に強い影響を及ぼすようになったためだとしています。

論文では日本についても分析し、1973年から1987年にかけてマクロのボラティリティが低下しているとし、その理由について、鉄鋼業と建設業の衰退を挙げています。また、1987年から1990年にかけてマクロのボラティリティが緩やかに上昇したことも指摘し、これはこの期間に建設業の影響力が高まったためであるとしています。

di Giovanni,Levchenko, and Mejean(2014)では、1990年から2007年にかけてのフランス企業のデータベースを用いて、企業固有のショックがマクロ経済に及ぼす影響は、共通ショックと同程度に重要であることを示し、さらに詳細な分析から、企業規模の分布がべき分布のようにファットテールである場合に、大企業のミクロショックが総体的な変動に直接影響することや、投入―産出構造がこれを増幅する可能性があることを示し、さらに、後者の要因が、前者の影響の約3倍重要となることも指摘しています。

Carvalho(2007)では、米国のデータを用いて、財の供給者としての側面をみた時に、一部のセクターで偏りがある、つまり汎用財として幅広いセクターと関連があるようなセクターが存在することを示しています。仮に経済が完全に均質的な供給構造を持つ場合には、いわゆる大数の法則で考えて、国全体の経済のボラティリティはセクター数の逆数に比例することになり、例えば5セクターの経済から500セクターの経済になるときには、ボラティリティは1/100になります。しかし論文では、実際の米国経済の状況をもとにして考えると、同じように5セクターの経済から500セクターの経済になるときに、ボラティリティは1/2にしか低下しないと指摘し、汎用セクターともいうべき、幅広いセクターに対して中間的な役割を果たす企業・セクターの存在が、マクロのボラティリティに影響を及ぼすと指摘しています。

Carvalho, Vasco(2007).”Aggregate Fluctuations and the Network Structure of Intersectoral Trade,”Economics Working Papers 1206, Universitat Pompeu Fabra.

Carvalho, Vasco, and Xavier Gabaix(2013).”The Great Diversification and Its Undoing.” American Economic Review,103(5),1697–1727.

di Giovanni, Julian, and Andrei A. Levchenko(2012).”Country Size, International Trade, and Aggregate Fluctuations in Granular Economies,” Journal of Political Economy,120(6),1083-1132.

di Giovanni, Julian, Andrei A. Levchenko, and Isabelle Mejean(2014).”Firms, Destinations, and Aggregate Fluctuations,” Econometrica,82(4), 1303-1340.

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