ここまでみてきたようなミクロな要因が、インフレ率に与える影響についてみてみます。こうした研究は現状まだあまりありませんが、Alvarez-Blaser et al.(2025)では、先進国・新興国16か国について分析を行っています。
論文の分析では、先進国について、2005年~2020年までのインフレ率の変動要因の40%以上が企業要因によると指摘し、さらに、そのうちの2/3が上位10社の要因として説明できると指摘しています。また、製品カテゴリー単位の要因も、15%程度あると指摘しています。企業要因の変動は、企業固有のショックにより引き起こされており、一方でカテゴリー単位の変動については、半分以上が共通ショックに対するカテゴリー間の反応の違いに起因していると指摘しています。
加えて、一般にインフレ率は先進国では低く、新興国では高い傾向にあることが知られていますが、論文では、インフレ率の高い国では、こうした要因が総じて小さくなることを指摘しています。
このほか、論文では大規模小売業者の役割についても分析しており、こうした要因がインフレ変動に及ぼす影響も相応にある(先進国・新興国共に)と指摘しています。
最後に論文では、新型コロナ禍のインフレの中で、これらの要因の影響がどう変化したかについて分析しています。先進国については、2005年~2020年までの期間では、企業要因の影響は全体の22%程度、製品カテゴリー単位の要因は14%程度であったが、2021年~2022年の期間では、これが38%、21%に上昇したとしています。一方で新興国については、この期間こうした要因の影響は低下したとしています。
因みに最後の、特に先進国で、企業要因の影響が新型コロナ禍で高まったとする指摘については、一部の大企業を多くの製品を販売している企業と捉えることで、理論的にも支持することができます。ニューケインジアンモデルの理論的な分析では、多くの製品を自社内で生産している企業では、各製品の価格変動がシンクロすることが指摘されており、このことを踏まえると、小さなショックよりも大きなショックが生じた際には、より多くの大企業が価格変更を考え、その際にはこうした価格変動のシンクロが多くの企業で発生することで、国全体でも幅広い製品で大きな影響が生じ、トータルのインフレ変動も大きくなると考えられます(Midrigan(2011)、Karadi and Reif(2019)、Blanco et al.(2024))。
Alvarez-Blaser, Santiago, Raphael Auer, Sarah M. Lein, and Andrei A. Levchenko(2025).”The Granular Origins of Inflation,” BIS Working Papers No.1240.
Blanco, A., C. Boar, C. J. Jones, and V. Midrigan (2024).“Non-Linear Inflation Dynamics in Menu Cost Economies.” NBER Working Paper 32094.
Karadi, P., and A. Reiff (2019).“Menu Costs, Aggregate Fluctuations, and Large Shocks.” American Economic Journal: Macroeconomics,11,111–146.
Midrigan,V.(2011).“Menu Costs, Multiproduct fFirms, and Aggregate Fluctuations.” Econometrica, 79, 1139–1180.
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