少し前になりますが、このテーマの前回の投稿まででみてきた企業の資金制約について、今回は上場企業と非上場企業という視点でみてみたいと思います。
企業の分析というのは、多くは(特に昔は)上場企業を対象にしたものが比較的多かったといえます。この大きな理由の一つは、データ面の制約にあったといえます。ただ、近年では様々なデータベースが整備されてきたことから、多くの国について、非上場企業も対象にした分析が可能になってきています。Ueda,Ishide, and Goto(2019)では、日本の民間のデータベースを活用した分析を行い、上場企業・非上場企業間での資金制約や資金調達の違いを分析しています。
論文の指摘としては、まず、上場企業と、特徴がよく似た非上場企業を比較すると、上場企業は資本の限界生産性が低いという結果が得られると指摘しています。これは理屈としては、資金があれば企業はその分資本を投下することができるため、資本の限界生産性が低くなることから、この結果は非上場企業はよりタイトな資金制約に直面していることを指し示しています。
もう1つは、やはり上場企業と、特徴のよく似た非上場企業を比べると、上場企業は不景気の際により多く借り入れができるということを指摘しています。資本の限界生産性が低いだけなら、上場企業がただ非効率な経営をしているのではないのかと考えることもできますが、不景気の際により多く借り入れられるということは、銀行の選別行動を考えれば、上場企業の方が貸倒リスクが少ないということになり、彼らは非効率な経営は行っていないということになります。
加えて、企業の資金調達行動という観点から、上場企業では好景気の際には、株式による資金調達を積極的に行うことから、むしろ銀行からの借入は非上場企業よりも少なくなると指摘しています。また論文では、こうしたことから上場企業はいざというときに銀行からの借入を行うことができるのだともしています。
一方で、上場の悪影響についても指摘がされています。Stein(1989)では、経営者が株価を追い求めるようになる結果、長期的な利益を犠牲にしてでも短期的な利益を膨らませようとする可能性があることを、近視眼的な経営者を考えることで、理論的に示しています。合理的に考えれば、長期的には利益に繋がらないのであれば、短期的に利益が膨らんだとしても市場は反応を示さないことが予想されるため、経営者はこうした行動をとることはないのですが、近視眼的な経営者を考えることで、仮に市場が騙されなくても、株価の上昇を追い求めて、長期的な利益を犠牲にしてでも短期的な利益を膨らませたいと考え、行動する経営者が出てくることを示しています。実証的にも、Asker,Farre-Mensa, and Ljungqvist(2015)が米国企業について分析を行い、米国の上場企業はより短期主義的、すなわち売上高成長率で示される成長機会への感応度が低くなることを示しています。さらに、株価が業績報告に対して感応度が高くなるような上場企業ほど、この傾向が強いことも指摘しています。こうした企業では、もし仮に短期的に株価が上昇して、企業の資金制約が緩和されたとしても、長期的な利益を犠牲にしてしまったためその後伸び悩み、厳しい資金制約に陥ることも懸念されます。
このほかには、Ueda and Sharma(2020)が、33か国のデータを用いた実証分析を行い、債権者保護の強い国では上場企業と非上場企業の資金制約の差が小さくなる(つまり、その分上場のメリットが低くなる)ことを示しています。また、上場企業だけを分析対象とした研究ですが、Claessens,Ueda, and Yafeh(2014)では、40か国のデータを用いた分析から、コーポレートガバナンスがきちんとしていない国では、企業が直面する資金制約の企業規模間での異質性が大きくなり、公平・効率的な資金配分が行われないと指摘しています。こうした指摘からは、株式市場の進化を追い求めていくことの重要性を実感することができます。
最後に不景気の際の話に戻って、銀行の企業に対するクレジットライン(クレジット上限額)について分析した研究を1つみてみたいと思います。
Greenwald,Krainer, and Paul(2020)では、米国企業のミクロデータやモデルを用いて、新型コロナウイルス感染症が生じた際の分析を行っています。論文では、この時期、米国企業の信用枠を用いた資金の引き出しは大幅に増加したものの、その多くが大企業であったとし、中小企業については、大企業が銀行からの引き出しを増やしたことにより、銀行が中小企業のタームローン(1年以上の中長期融資)を渋るようになり、そのため中小企業では設備投資が大幅に低下することになったと指摘しています(論文ではこのチャネルを“クレジットラインチャネル”と呼んでいます)。
さらに論文では、こうしたことへの対応策として、中央銀行が社債市場に介入することで、特に大企業の資金調達環境を改善させ、それによって大企業がクレジットラインの返済を行って、銀行も資金に余裕が生まれ、最終的に中小企業への融資の回復・中小企業の設備投資の回復につながると指摘しています。
Asker, John, Joan Farre-Mensa, and Alexander Ljungqvist(2015).“Corporate Investment and Stock Market Listing: A Puzzle?” Review of Financial Studies, 28(2), 342-390.
Claessens, Stijn, Ueda, Kenichi, and Yafeh, Yishay(2014).”Institutions and Financial Frictions: Estimating with Structural Restrictions on Firm Value and Investment,” Journal of Development Economics, 110,107-122.
Greenwald, Daniel L., John Krainer, and Pascal Paul(2020).”The Credit Line Channel,” Working Paper Series 2020-26, Federal Reserve Bank of San Francisco.
Stein, Jeremy C. (1989). “Efficient Capital Markets, Inefficient Firms: A Model of Myopic Corporate Behavior,” Quarterly Journal of Economics, 104 (4),655-669.
Ueda, Kenichi, Akira Ishide, and Yasuo Goto(2019),”Listing and Financial Constraints,” Japan and the World Economy, 49,1-16.
Ueda, Kenichi, and Somnath Sharma(2020).”Listing Advantages around the World,”Journal of the Japanese and International Economies,58,101089.
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