女性の労働参加の拡大とマクロ経済について考えた研究

折角経済格差の研究を整理しているので、今回はもう1つ、男女間の経済格差の縮小という観点から、女性の労働参加の拡大がマクロ経済的にどのような影響があるのかについて分析した研究をみてみたいと思います。

(注?)実は大湾秀雄氏の論文を以前いくつかみたことがあり、本屋で「男女賃金格差の経済学(日本経済新聞出版)」という本を見つけ、買いたかったのですが、読むものが他にも色々とあり、まだ買えずにいるモヤモヤもあって、なんか気になって違う人の論文を思わず読んでしまいました。ただ、よく考えてみれば、他のものを読めば、それだけ本の購入から遠ざかるんですよね….本当に、世の中は難しいなと思います。

女性の労働参加がマクロ経済に与える影響については、日本でも注目されています。中野(2016)では、女性の労働参加が進むことで、実質消費や実質GDPが上昇すると指摘しています。また、スタインバーグ・中根(2012)では、やはり女性の労働参加が進んだ場合、日本の潜在GDP成長率が上昇するとしています。

今回紹介する論文は、米国について、1980年代~リーマンショック位までを分析しています。また、女性の労働参加という話の中でも、夫婦共働きの拡大、みたいな話ではあるのですが、面白かったのでみてみようと思います。

歴史的にみて女性の労働参加が増加した要因はいろいろ言われています。家計の労働供給の観点では、例えばGreenwood, Seshadri and Yorugoklu (2005)は、家電製品の進化によって家事に必要な時間が短縮され、女性の労働参加が進んだとしています。また、Albanesi and Olivetti (2016)は、母親の健康の改善と粉ミルクの開発が、既婚女性でかつ子供を持つ女性の労働参加の上昇に寄与したと指摘しています。

一方で企業の労働需要という観点では、Galor and Weil (1996)やRendall(2017)が、時代とともに、肉体労働的な仕事よりも知的要件を必要とするような仕事が増えていったことが、一因となったと指摘しているほか、Ngai and Petrongolo (2017)では、サービス産業の拡大が寄与したとしています。また、Black and Spitz-Oener (2007)では、非定型の分析・コミュニケーション業務で女性の労働需要が比較的大きく伸びてきたと指摘しており、こうした業務が様々な業界でより一層重要性を増していることも、一因と考えられます。

こうした中、今回紹介するAlbanesi(2024)では、女性、特にここでは既婚女性についてですが、その労働供給の特徴として、intra-household insurance(家計内保険)の特徴がみられるとしています。つまり、家計の所得を補うため、自分でも働こう、というタイプの労働の特徴がみられるとしています。この場合、例えば景気後退期を考えると、一般には労働時間が減少する傾向がありますが、米国の女性の特徴として、労働時間の低下がみられないとしています。

こうした特徴は最初Lundberg (1985)で指摘されましたが、他にもShore (2010)が、景気後退期において、夫と妻の所得の正の相関が低くなるとし、Ellieroth (2019)でも、景気後退期でも、既婚女性の失業の可能性は低いことや、夫の失業が妻の労働時間と関連していることを指摘しています。また、Cullen and Gruber (2000) では、失業保険給付が、夫の失業に伴う配偶者の労働供給の増加をクラウドアウトすると指摘しています。さらにOrtigueira and Sassi (2013)では、富裕層世帯では失業中の支出を主に貯蓄から賄うのに対して、貧困世帯では配偶者の労働供給によって賄うことを示しています。

(注)論文(Albanesi(2024))では、女性の労働時間の景気循環への依存性が小さい要因の1つとして、医療サービスや教育といった景気循環の影響を受けにくいセクターに従事する割合が高いこともあるとしています(他に、Albanesi and Sahin (2018) やOlsson(2019)でも同様の指摘)。

さて、こうした場合に、世帯単位でみると世帯所得の平準化が図られるところ、マクロ経済ではどんな影響がみられるのかをAlbanesi(2024)では分析しているのですが、1980年代の米国経済に対しては、この時期というのは、女性の労働参加率が年々上昇している時期であったことから、GDPやインフレ率の安定に寄与したとしています。一般にこの時期については、経済政策の成功だとか、資源価格が安定していたとかといったことがよく指摘されていますが、この時期に女性の労働参加率が大幅に上昇したことも、経済の安定に一役買ったということのようです。

ただ、論文によると、80年代の女性の労働参加率の上昇は90年代に入ると頭打ちになったとしています。論文が分析している米国の80年代~リーマンショック前までの期間は、一般にGreat Moderation(大いなる安定期)と呼ばれており、一般にはGDP成長率やインフレ率が安定していた時期とされていますが、その中でも何度か景気後退を経験しており(90年代初頭、01年頃、07~09年頃)、そのいずれの時期でも、失業率がゆっくりとしか回復しないという現象を経験していて、雇用なき景気回復(Jobless Recovery)といわれています。

論文では、こうしたことが生じた1つの要因としても、女性の労働参加が頭打ちとなったことあげられると指摘しています。

参考文献

Albanesi, Stefania(2024).” Changing Business Cycles: The Role of Women’s Employment,” Working Paper No.109,Opportunity & Inclusive Growth Institute, Federal Reserve Bank of Minneapolis.

Albanesi, Stefania, and Claudia Olivetti(2016).”Gender Roles and Medical Progress,” Journal of Political Economy, 124(3), 650-695.

Albanesi, Stefania, and A. Sahin(2018).”The Gender Unemployment Gap,” Review of Economic Dinamics, 30, 47-67.

Black, Sandra E., and Alexandra Spitz-Oener(2007).”Explaining Women’s Success: Technological Change and the Skill Content of Women’s Work,”NBER Working Paper No.13116.

Cullen, J.B., and Gruber, J.(2000).”Does Unemployment Insurance Crowd out Spousal Labor Supply?” Journal of labor Economics, 18(3),546-572.

Ellieroth, Kathrin(2019).“Spousal Insurance, Precautionary Labor Supply, and the Business Cycle – A Quantitative Analysis,”mimeo.

Galor, Oded, and David N. Weil(1996).”The Gender Gap, Fertility, and Growth,” American Economic Review,86(3), 374-387.

Greenwood, Jeremy, Ananth Seshadri, and Mehmet Yorukoglu(2005). “Engines of Liberation,” Review of Economic Studies,72(1),109–133.

Lundberg, S.(1985). “The Added Worker Effect,”Journal of Labor Economics,3(1, Part 1),11-37.

Ngai, L. Rachel, and Barbara Petrongolo (2017).”Gender Gaps and the Rise of the Service Economy.” American Economic Journal: Macroeconomics,9(4),1–44.

Olsson, Jonna(2019).”Structural Transformation of the Labor Market and the Aggregate
Economy”mimeo.

Ortigueira, S., and N. Siassi(2013).”How Important is Intra-household Risk Sharing for Savings and Labor Supply?” Journal of Monetary Economics,60(6),650-666.

Rendall, Michelle P.(2017).”Brain versus Brawn: The Realization of Women’s Comparative Advantage,” Working Paper No. 491, Institute for Empirical Research in Economics, University of Zurich.

Shore, Stephen H.(2010).”For Better, For Worse: Intrahousehold Risk-Sharing over the Business Cycle,” Review of Economics and Statistics,92(3),536–548.

中野諭(2016)、「女性の労働参加の進展がマクロ経済に与える影響―マクロ経済モデルによる試算―」、JILPT Discussion Paper No.16-04、労働政策研究・研修機構

スタインバーグ, チャド・中根誠人(2012)、「女性は日本を救えるか?」IMF Working Paper No.WP/12/248, International Monetary Fund.

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