次回の話の前に、少し話としては脱線しますが、関連はあるということで、家計の分析で用いられるデータについて、現在・そして今後利用が増えていくのでは、というようなものを少し書いておきたいと思います。
1つ目がオルタナティブデータと呼ばれるものになります。例えば経済統計の調査データのような、伝統的に分析に用いられるデータとは異なるものを呼んでおり、近年利用が増えてきています(Garboden(2020)、北村(2020)、渡辺・大森・横山(2023))。
個人消費関連のオルタナティブデータとしては、クレジットカード会社の会員の支出情報、小売店の販売情報であるPOSデータ、家計簿アプリデータ、銀行口座の入出金データといったものがあります。こうしたデータを用いる場合には、サンプルの偏りなどからくるデータごとのくせを把握する必要があると考えられますが、一方で、一般に速報性に優れ、高頻度のデータが利用できるという利点があります。
もう1つ、家計部門のデータベースに企業部門のデータベースを結合させた、より大きなデータベースを用いた分析の可能性というのもあると思います。
管理人(2025)でも説明しましたが、家計は予備的貯蓄を行う際に、裁量的支出を中心に消費を削減していきます。こうした支出はサービス関連のものが多いと考えられますが、だとするならば、この時、産業別ではサービス産業への影響が特に大きくなることが考えられ、これはつまり、そうした産業で従事する労働者の労働所得への影響が、他の産業と比べて大きくなる可能性があるといえます。
Andreolli, Rickard, and Surico(2024)では、米国の家計調査にあたるConsumer Expenditure Survey(CEX)、労働力調査にあたるCurrent Population Survey(CPS)、企業の小売りデータから作成した財・サービスごとの個人消費データであるPersonal Consumption Expenditures(PCE)を用いた分析を行っています。論文では米国について、裁量的支出にあたる項目の家計消費が、景気の影響をより大きく受けることや、こうした産業に従事する人の労働所得も同様に景気の影響を強く受けること、さらにこうした産業では、従事する労働者がその日暮らしの家計である割合が、他の産業よりも大きくなることをデータから示しています。
さらに、家計を通常の家計とその日暮らしの家計に分類したTwo-Agent New Keynesian(TANK)モデルの分析から、裁量的支出産業の売上や労働所得が、強い景気循環性を持つことと、こうした産業で従事する労働者の所得が低いという状況が相互作用することによって、金融政策のマクロレベルの効果が非常に大きくなる可能性があると指摘しています。
これはすなわち、最初に消費を変動させるのは主に所得に余裕がある家計で、例えば金融緩和策によって裁量的支出を増やしたりするわけですが、裁量的支出産業に従事する労働者は所得が低く、限界消費性向は高いため、当該労働者の労働所得への影響を通じて、さらに大きなマクロの消費変動が生じることになります。
また、所得が低い労働者の場合には、裁量的支出以外の支出も大きく変動させる可能性があり、影響が広範囲に及ぶ可能性があるとも指摘しています。
このほか、管理人(2025)の脚注14で触れたのですが、景気後退時の非正規雇用の解雇の程度が、企業間で異なっているという指摘があって、従事する産業や企業規模・組合の組織率といった情報も、金融政策などの効果を分析していく上で必要になるかもしれません。
日本については、家計のデータベースと企業のデータベースを繋ぎ合わせたデータベースを用いた分析はまだみられませんが、例えば総務省が行っている家計調査では、家計の支出・収入・貯蓄・借入といった情報に加えて、どういった企業・雇用形態で働いているかといった情報も調査しているため、こうした情報と企業側のデータを用いることで、有益な結果が得られる可能性もあります。
最後に、マクロプルーデンス政策の観点からも、データを用いた分析は必要だと思います。こうした研究についても、まだまだこれからだと思われますが、例えばCerutti et al.(2017)が119か国の2000年~2023年のデータベース(現状最新版)を構築するなど、少しずつ環境も整備されてきており、今後進展が期待されます。
参考文献
Andreolli, Michele, Nnatalie Rickard, Paolo Surico(2024).”Non-Essential Business Cycles,”CEPR Discussion Paper No.19773.
Cerutti, Eugenio, Ricardo Correa, Elisabetta Fiorentino, and Esther Segalla(2017).”Changes in Prudential Policy Instruments-A New Cross-Country Database,” International Journal of Central Banking,13(1),477-503.
Garboden, Philip M.E.(2020).”Sources and Types of big Data for Macroeconomic Forecasting,” in Peter Fuleky eds. Macroeconomic Forecasting in the Era of Big Data: Theory and Practice, Springer.
管理人(2025)、「ミクロ情報を踏まえた世界と経済政策-1人1人が違う世界の金融政策(1)」、当サイト
北村行伸(2020)、「応用ミクロ計量経済学の手法と論点」、経済セミナー編集部編『新版 進化する経済学の実証分析』、日本評論社
渡辺努・大森悠貴・横山翔(2023)、「オルタナティブデータの可能性と課題」、『経済分析』第208号、内閣府経済社会総合研究所
コメントを残す