昨日アップした“経済格差と金融政策“に関する過去の投稿をまとめたペーパーの中で、新しいものを補論1として付け加えました。今回はそれを紹介したいと思います。
ここでは、日本家計の経済格差とその要因について、特に所得格差を中心に簡単に触れています。Kitao and Yamada(2025)では、1984年~2019年までの所得格差を計測しています。図1がその時のジニ係数の値なのですが、2019年は若干下がっているものの、全体に上昇傾向にあるということがわかります。
図1.日本の所得格差(ジニ係数)(1984~2019)

(出所)Kitao and Yamada(2025) Table3から筆者作成
この要因について考える場合に、よく採られる方法として、年齢別のジニ係数を計算するということが行われ、日本の場合、所得のジニ係数は図2のようになります。
図2.年齢別の所得格差(ジニ係数)(1984~2019)

(出所)Kitao and Yamada(2025) Figure10(d)
このグラフをみると、全体的に高齢層の方が同じ年齢内の所得格差が大きいことや、1990年代くらいまでは60歳を過ぎても所得格差がガンガン拡がっていたのに対して、2000年代くらいから、60歳あたりを境に所得格差が横ばいになってきたという様子がみてとれると思います。
例えば大竹・佐藤(1999)や小塩(2004)、大竹(2005)では、90年代前半から後半くらいまでの分析を通して、高齢化が進展したことが日本の所得格差が拡大している最大の要因であると指摘しており、大竹・小原(2010)では、2004年まで推計を伸ばして、やはりこのことが所得格差拡大の最大の要因としています。
山口(2014)はもう少し細かい指摘をしていて、人口の高齢化の効果は2種類存在し、1つが60歳以上の完全に退職してしまう人達の効果で、もう1つが60歳未満の人達の人口割合が増加することによる効果だとしています。その上で、90年代までの所得格差の増加は1つ目の要因が強く効いているのに対して、2000年代(2004年まで)は2つ目の要因が強く効いているとしています。
因みに、近年になって60歳以上のところで所得格差が拡大しなくなっている理由について、Kitao and Yamada(2025)では、1985年に全国民が共通して加入する基礎年金制度が導入された効果がでてきているとしていて、年金を除いたベースでジニ係数を計算すると、図3のように60歳を過ぎても所得格差が拡がり続けると指摘しています。
図3.年齢別の所得格差(除く年金)(1984~2019)

(出所)Kitao and Yamada(2025) Figure11
このほか、大竹・小原(2010)では、2000年代に入ってからの傾向として、若者の所得格差の拡大をあげ、非正規社員が増加したことが影響しているとしています。ただ、ここでは2004年までしか分析していないこともあり、あまり大きく扱っていません。図2では2019年まで推計しているのですが、これをみると、年々少しずつ格差が拡がっているみたいではあります。
また、少しこみいった話になるのですが、Kitao and Yamada(2025)の推計は世帯ベースのジニ係数の推計をしていて、どういうことなのかといいますと、世帯主の年齢と世帯所得を使っています。そのため、現役世代のところの所得格差の拡大という意味では、夫婦共働きの効果というのも影響している可能性はあると思います。
因みに、世帯主ベースで推計を行う場合には、60歳以上の高齢層のジニ係数にも影響が及ぶとする指摘もされていて、それは何かというと、仮に未婚の青年層が60歳以上の親と同居しているような場合が考えられるとされています。四方(2018)では、この効果を除いた、個人に焼き直したベースのジニ係数の推計を行っていて、60歳以上のジニ係数は全体に落ち着いた値になるとしています。
因みに、資産格差については、図4にある通り、Kitao and Yamada(2025)では地味に拡大傾向にあるようです。
図4. 日本の資産格差(ジニ係数)(1984~2019)

(出所)Kitao and Yamada(2025) Table4より筆者作成
年齢別にこれをみてみると、図5の通り、幅広い年代でジニ係数が増加しています。この理由として、論文では、富裕層に資産が集中しているというよりは、むしろ全く資産を持たない家計の割合が増えてきていることが原因にあると指摘しています。
図5.年齢別の資産格差(ジニ係数)(1984~2019)

(出所)Kitao and Yamada(2025) Figure10(f)
参考文献
Kitao,Sagiri, and Tomoaki Yamada(2025).”Earnings, Income, and Wealth Inequality in Japan A long-Term Perspective,1984-2019,”ESRI Discussion Paper Series No.400,Economic and Social Research Institute.
大竹文雄(2005)、『日本の不平等 格差社会の幻想と未来』、日本経済新聞社
大竹文雄・小原美紀(2010)、「所得格差」、(樋口美雄編『労働市場と所得分配』第8章、慶應義塾大学出版会)
大竹文雄・斎藤誠(1999)、「所得不平等化の背景とその政策的含意―年齢階層内効果、年齢階層間効果、人口高齢化効果―」、『季刊社会保障研究』35(1)、65-76頁
小塩隆士(2004)、「1990年代における所得格差の動向」、『季刊社会保障研究』40(3)、277-285頁
四方理人(2018)、「親同居未婚者の増加と所得格差」、『季刊個人金融』2018年夏号
山口雅生(2014)、「所得格差拡大と高齢化の再検討」、『経済研究』65(1)、一橋大学経済研究所、86-93頁
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