今回は労働力の掘り起こしについて、もう少し考えてみます。総務省の労働力調査では、“未活用労働指標”というものを、2018年以降作成・公表しています。未活用労働の定義としては、総務省(2024)のなかで、失業者、パートタイム等の就業者の中で仕事を追加したい者、非労働力人口の中で仕事に就くことを希望しているが今は仕事を探していない者等から成り立っているとしています(図1)。
図1. “未活用労働”の定義

(出所)総務省(2024)
いわば労働供給の“伸びしろ”をはかる指標といえるものですが、労働力調査では、4種類の未活用労働指標と、2種類の補助指標を公表しています。ここではこのうち、未活用労働指標2(LU2)を中心にみてみようと思います(LUはLabor Underutilizationの略)。
LU2指標の定義としては、失業者+追加就労希望者を労働力人口で割ったものに100を乗じて算出しています。2018年以降の数値をグラフにしたものが、図2となっていて、ここでは男性、女性の値と、男女合計の値を載せています。
図2. LU2の値

(出所)総務省「労働力調査」をもとに筆者作成
特徴としては、2018年から一貫して女性の方が値が大きくなっていることが言えます。これはつまり、男性よりも女性の方が、労働力の伸びしろが大きい状況が続いているということになります。
さらにこれを年齢別にみてみます。男性、女性それぞれの値をグラフにしたものが図3になります。
図3. 性別・年齢別のLU2

(出所)総務省「労働力調査」から筆者作成
この結果をみると、多くの年齢層で女性の方がLU2の値が大きくなっていることや、65歳以上に関しては、女性の方がこの値が小さくなっていることがわかります。また、男性では54歳まで値が減少し、その後は上昇しているのに対し、女性では逆に55歳以降大きく低下しています。
図2、3の傾向は、例えば非労働力人口に含まれる“潜在労働力人口”を加えたLU4(=(失業者+追加就労希望者+潜在労働力人口)÷(労働力人口+潜在労働力人口)×100)指標でも、同じようにみることができます(図4)。
図4. LU4の値(左:女性・男性・合計、右:年齢別)

(出所)総務省「労働力調査」から筆者作成
特に図3(や図4の右)の動きについて、男性については何となく理解できるような気もします。55歳くらいから徐々に現在の仕事を退職する人が増える中で、少しずつ未活用な労働力が増えてくるということが考えられます。一方で女性についてみると、むしろ55歳くらいから大きく未活用労働力が減少しているわけで、これは不思議な気がします。
なぜ、このような傾向がみられるのか。1つの可能性として、これまでの話の流れで強いてあげるならば、P7のダグラス=有沢の法則で、ご主人の労働時間・所得が減っていくことを受けて、女性の労働時間が増えてくるということが考えられ、これはあるように思います。
ただ、現在は夫婦共働きが浸透しており、むしろ55歳以上の世代の人たちはそうした働き方が浸透する前の人たちだったと考えると、急に数字が下がるのはやはり不思議です。そうした中、ヒントとして考えられそうなデータとして、総務省が3年ごとに行っている、就業構造基本調査の中の、就業調整の有無に関する調査結果があります。
就業構造基本調査の中では、“収入を一定の金額以下に抑えるために就業時間や日数を調整していますか”という質問をしていて、回答者は“している”もしくは“していない”を塗りつぶすことになっています。
図5では、2022年就業構造基本調査の女性の結果をグラフにしています。グラフでは、就業調整を行っている労働者数の、労働者の総数に対する比率を年齢階層別に計算しています。
図5. 女性の年齢別就業調整比率(%)

(出所)令和4年就業構造基本調査より筆者作成
横線の値(29.8%)が全年代ベースの比率になります。結果をみると、15~24歳と35~54歳にかけて、就業調整比率が高くなっていることがわかりますが、図14(や図15の右)をみると、これらの期間では未活用労働指標の値が高くなっていることがわかります。一方で、25~34歳と55歳以降については、これらの年齢層と比べて就業調整比率が低くなっています。
ただ、25~34歳については就業調整比率が低くなっているにもかかわらず、未活用労働指標の値は55~64歳と同じか、若干高めとなっているのですが、例えば、25~34歳を25~29歳までと30~34歳までに分けて就業調整比率を計算してみると、前者は低い値ですが、後者は55~64歳と同じくらいの値になります。
こうみると、25~29歳の就業調整比率が低くなっているところをうまく説明できれば、就業調整比率と未活用労働指標が繋がってくるように思えますが、実はもう1つ考えなければならないことがあります。それが、家事・育児の影響です。
一般的に女性は30歳を境に結婚や出産が増えてくると考えられます。これは就業調整に関する調査結果にも如実にあらわれていて、例えばリクルート(2024)でも、独自に就業調整の有無やその理由について調査を行っているのですが、ここでは、“あなたは現在、何らかの理由で働く時間を制限していますか。(因みに、「働く時間を制限している」とは実際に働ける時間数よりも短い時間しか働いていない状況や、本来働きたいと思っている時間数よりも短い時間数で働いている状況を指します。)”という質問をしていて、これは就業構造基本調査とは微妙に聞き方が異なるのですが、この中では、年齢層別(これは男女合計ベースですが)の結果として、30~50代くらいまでで“年収の壁”と“家事・育児”が就業調整の理由として最も多いという結果が得られています。
仮に“年収の壁”と“家事・育児”が要因である場合、一見するとそもそも現状以上の労働供給はできないように思えますので、未活用労働指標の追加就労希望者の定義にあてはまらないのではということが考えられます。
ただ、次のような例を考えてみてください。現在パートタイムで働いていますが、(それこそ育児にはお金がかかるので)フルタイムで働くことを希望している人がいたとして、例えばフルタイムで働きたいのだが、家庭との両立のためにテレワークが可能な部署や残業が少ない部署を本人が希望している一方で、会社側はテレワークのできない部署や残業の多い部署しかオファーしてくれないというような場合、それならば結局パートタイムで働くしかなく、そうなると年収の壁にぶつからないように勤務する、というようなことが考えられます。このような場合には、未活用労働指標の追加就労希望者と、就業構造基本調査やリクルート(2024)の就業調整をしている労働者が一致することになります。
他にも、もっとシンプルに厳しく職場から断られるようなケースもあるかもしれません。例えばキャリアのブランクを心配されたり、残業してくれないだろうと決めつけられたり、長期的なキャリアの形成を理由に若い人を採用しようとしたり、前職の役職や年収が高すぎて、すぐに辞めるのではと思われたり(いわゆるオーバースペック問題)、こうした場合でも、未活用労働指標の追加就労希望者と、就業構造基本調査やリクルート(2024)の就業調整をしている労働者が一致することになります。
こうした雇用のミスマッチは現実問題として結構あるでしょうし、そう考えれば、この年代の女性の就業調整の多さと、一方で就業調整の要因の割に、未活用労働指標が大きくなっていることが繋がってきます。ここだけの材料では、これ以上のことはなかなかわかりませんが、例えば図6をみてください。これは2022年の就業構造基本調査を詳細に分析した労働政策研究・研修機構(2025)の“女性の就業形態・年齢別の就業継続希望“の結果なのですが、これをみると、正規雇用で働いている場合には、年齢とともに”この仕事の他に別の仕事もしたい”や”別の仕事に変わりたい”と希望する割合は大きく低下していますが、パート・アルバイトの場合には、両者の合計でみると、年齢が上がっても、高水準を維持し続けています。
基本的にお金がかかる年代であるということを考慮すると、”条件さえ合えばもっと働きたい”という人は結構多いと考えられます。
図6. 女性の就業形態・年齢別の就業継続希望

(出所)労働政策研究・研修機構(2025)の図表4-2-3
次に、25~29歳についてですが、この年齢層では、確かに就業調整比率が低くなるのですが、やはり図6をみてみると、パート・アルバイトのみならず、正社員等幅広い就業形態で、“現在の仕事のほかに別の仕事もしたい”と考えている割合が、30~34歳と同等か、それ以上となっています。
また、リクルート(2024)の調査結果をみると、18~29歳(男女計)の就業調整の理由として、“心身ともに健康に働くため”と“勉強や趣味など他に優先することがあるから”が大きな割合を占めているという結果を得ています。こうした理由は更なる就業時間の追加を希望しているとは映りませんが、それでも、何かのきっかけで大きく労働に移る可能性が感じられるため、ポテンシャルは高いと考えられます。
このように考えていくと、55歳以上の年齢層で徐々に就業調整比率や未活用労働指標が低下しているのは、“家事・育児”の制約がなくなって働きにでるようになったことや、育児が終わり、それまで程は多くの収入を得る必要がなくなったことなどにより、以前ほどは労働に時間を割こうとは考えなくなったことが考えられます。
因みに、男性についても同様に就業調整比率をみてみると、25~34歳でぐっと減り、その後も54歳まで減り続ける一方で、55歳以降については上昇傾向にあることがわかります。
図7. 男性の年齢別就業調整比率(%)

(出所)令和4年就業構造基本調査より筆者作成
ただ、女性と比べると、全体に数値は低い傾向にあるため、就業調整比率の動きが未活用労働指標の動きに影響するのかはわかりませんが、仮にそうであると考えると、1つの示唆として、先ほどのリクルート(2024)の就業調整の理由が参考になります。
リクルート(2024)の理由をみてみると、男性について、“勤務先から提示された勤務時間だから(希望よりシフトが少ない)”という回答が多くなっています。また、年齢別(男女合計ベース)でも、これを理由として回答した人が、高齢層に多くなっています。この結果をみると、男性については、就業調整している人についてもそうでない人についても、“若い時のようにまだまだ働きたい!”という強い要望があって、それが高齢層の未活用労働力を押し上げていることが考えられます。
単純に就業調整比率の数値をみてみると、高齢層でも男性よりも女性の方が高くなりますが、背景となる状況まで考えていくと、65歳以上で未活用労働指標が女性よりも男性の方が高くなるというのは、なんとなくシニア男性の置かれている環境や労働意欲という部分に理由があるような気がします。また、女性の未活用労働指標の値が低くなる理由の1つとしてダグラス=有沢の法則があるという先ほどの話も、ある程度合理的だと考えられます。
(注)また、リクルート(2024)によると、男性については、就業調整をしている理由として、“年金の給付額が減らないようにするため”という回答も、比較的大きなウエイトを占めています(実は女性は少ない)。このことは就業調整比率の上昇の要因になるとは思いますが、一方で未活用労働指標の上昇要因には、基本的にならないと思います。ただ、労働力の掘り起こしという観点で言えば、このことも重要な視点だといえます。
ここまでは、労働者の就業時間の実績や希望を直接みてきました。もう1つ、人的資本の計測という観点から、同じ問題をみてみたいと思います。
Kawaguch and Toriyabe(2022)では、人的資本に関する国際調査の結果を分析しています。分析に使用した国際調査は、労働者のスキルの蓄積と、そうしたスキルがどの程度使用されているのかについて、オンライン調査を行っています。Kawaguch and Toriyabe(2022)では、このオンライン調査の結果をOECD24か国について分析し、男女間でスキルの蓄積に差は殆どないものの、それらが用いられている程度については、女性は男性よりも使われていないことを示しています。図8は言語スキル、数理的スキルについての結果で、“男性―女性”の数値を表示していますが、例えば中段あたりの日本(JPN)をみてみると、スキルの使用に関する結果((b)、(d))はスキルの蓄積に関する結果((a)、(c))よりも格差が大きくなることがわかります。また、論文では、こうした格差が労働時間と関係しており、労働時間の不平等が解消されると、こうした格差はかなりの程度解消されるとも指摘しています。
さらに、論文では育児休業制度の効果についても分析していて、同様の分析を行った論文のサーベイや自身の分析を通して、特にスキルが中~高程度の女性については、育児休業制度がマイナスに働く可能性があると指摘しています。
こうしたことを踏まえると、個々人の労働供給は世の中の様々な制約の影響を受けており、労働供給を増やすための政策面の取組等を考える時には、こうした細かい事情のどの部分にアプローチすることが、経済的に効果があるかを考える必要があるといえます。
図8. スキルの蓄積とその利用の男女間格差(男性―女性)

(出所)Kawaguch and Toriyabe(2022)のFig 5
参考文献
総務省(2024)、「未活用労働指標の解説」、労働力調査の解説 参考(1)(https://www.stat.go.jp/data/roudou/definit.html)
リクルート(2024)、「就業時間調整者に関する調査2024~就業時間調整者が勤務時間を増やすきっかけは?今後のキャリアについてどう考えている?~」(https://jbrc.recruit.co.jp/data/pdf/shugyouchousei2024.pdf)
労働政策研究・研修機構(2025)、「若年者の就業状況・キャリア・職業能力開発の現状④―令和4年版「就業構造基本調査」より―」、資料シリーズNo.296
Kawaguchi, Daiji and Takahiro Toriyabe(2022).”Measurements of Skill and Skill-Use Using PIAAC,” Labour Economics, 78(102197).
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