今年は、アダム・スミスの“国富論”から250年!(2)

アダム・スミスの国富論は、全5篇で構成されており、以下の様になっています。

第1篇:労働の生産力向上と分配

分業のメリット、貨幣の起源、価格の決まり方(価格・賃金・利潤・地代)など、経済学の基礎理論について。

第2篇:資本の性質・蓄積・用途

資本(ストック)の種類や、蓄積される仕組み、生産的労働と不生産的労働の区別について。

第3篇:諸国民の富裕の進歩の差異

ローマ帝国崩壊後のヨーロッパ経済史を分析し、農業より商工業が優先されてきた経緯について。

第4篇:政治経済学の諸体系

重商主義(輸出による金銀蓄積を重視する考え)を悲観し、重農主義(農業こそが富の唯一の源泉であり、経済は自然の秩序に任せるべきだ)についても、“考え方はあっている”としながら、やや極端であるとして修正の必要性を説き、自由貿易の重要性を説く内容。

第5篇:主権者または国家の収入

国防、司法、公共事業などの国家の役割と、それを支える公債(借金)や税金の原則について。

このうち、第1篇は、経済学の根幹となる“価値がどう生まれ、どう配分されるか”を説いた全11章からなるセクションです。主なポイントを3つに整理しました。

1. 分業(第1〜3章)

スミスは、富の源泉は”労働”であるとし、その能率を上げる鍵が分業だと説きました。

ピン工場の例: 1人で全工程を行うより、工程を細分化して専門化することで、生産性が劇的に向上することを説明しました。

市場の広さ: 分業は”交換”を前提とするため、市場が大きければ大きいほど分業は進み、社会は豊かになると論じています。

2. 貨幣と価格(第4〜7章)

物々交換の不便さを解消するために貨幣が生まれ、商品の価値を測る尺度になったと考えました。

真の実質価格: 商品の価値は、それを作るのに必要な「労働量」で決まる(労働価値説の基礎)。

自然価格と市場価格: 賃金・利潤・地代の合計である”自然価格(本来の価格)”に対し、需要と供給で変動するのが”市場価格”です。市場価格は常に自然価格へと引き寄せられる(価格の自動調節機能)と説明しました。

3. 分配(第8〜11章)

生産された富が、社会の3つの階級にどのように分けられるかを分析しました。

賃金(労働者): 労働の対価。

利潤(資本家): 資本を投下したことへの報酬。

地代(地主): 土地を利用させることへの報酬。

スミスは、これら3つの要素が組み合わさって商品の価格が構成されると考えました。

以上が第1篇の主な流れですが、このうち“分業”のメリットについてさらに調べてみると、以下の様になります。

1. 労働者の習熟度の向上(スキルの専門化)

仕事を細かく分けることで、一人の労働者が一つの単純な作業に専念できるようになります。同じ動作を繰り返すことで、その作業に関する技術やスピードが飛躍的に高まり、結果として生産量が増えるというメリットです。

2. 作業転換による時間の節約(ロスタイムの削減)

一人が複数の工程を掛け持ちすると、道具を持ち替えたり、場所を移動したりする際に必ず”細切れの時間”が失われます。また、仕事を変える際のスムーズな集中力の切り替えは難しいため、一つの作業に固定することで、こうした時間的ロスを排除できると考えました。

3. 機械の発明と導入の促進(イノベーション)

作業が単純化されると、労働者自身が“どうすればもっと楽に、早くできるか”に気づきやすくなります。スミスは、分業によって工程が明確になることが、作業を代行・補助する機械の発明を促す大きな要因になると指摘しました。

スミスはこれらの相乗効果によって、社会全体の生産物が増え、結果として“最下層の民衆にまで富が波及する”と説いています。

もう1つ、“価格の決まり方”についてどのように考えているのかをみてみると、考え方のポイントとしては、価格を“労働量(コスト)”という根本的な物差しと、“需給(バランス)”という変動する要因の2段階で捉えている点になります。

1. 価値の二面性(使用価値と交換価値)

まず、スミスは価値を2つに分けました。

使用価値: 水のように、生活に不可欠で役に立つ価値。

交換価値: 貨幣や他の商品と交換できる力。

スミスは、水は使用価値が高いが交換価値(価格)は低く、ダイヤモンドは使用価値は低いが交換価値は極めて高いという“価値のパラドックス”を提示し、経済学が扱うべきは“交換価値”であると定義しました。

2. 真の価格:労働価値説

商品の“本当の価格”は何で決まるのか? スミスは、それはその商品を作るために必要な“労働量”であると考えました。

ある商品を手に入れることは、自分で働く代わりに“他人の労働を買い取る”ことと同じです。したがって、商品の“実質価格”は、それを生産するために費やされた苦労や時間の量によって決まると説きました(これが後の労働価値説の原型です)。

3. 名目価格と構成要素

しかし、現実社会では労働量ではなく“貨幣(お金)”で取引されます。これを“名目価格”と呼びます。スミスによれば、この価格は以下の3つの要素(構成要素)の合計で成り立っています。

賃金: 労働者への支払い

利潤: 資本家(経営者)の取り分

地代: 土地所有者への支払い

4. 自然価格と市場価格(自動調節機能)

ここが最も重要な部分です。スミスは価格を2つのレベルで説明しました。

自然価格(Natural Price):賃金・利潤・地代がその社会の平均的な水準にあるときの価格。いわば“適正価格(コスト合計)”です。

市場価格(Market Price):市場での需要(有効需要)と供給のバランスで、日々変動する“実際の取引価格”です。

もし市場価格が自然価格より高くなれば、その商売は儲かるので供給が増え、やがて価格は下がります。逆に低すぎれば供給が減り、価格は上がります。このように、市場価格は常に“自然価格”を中心として、そこへ引き寄せられるように動くと説明しました。

この“価格が自然に調整される仕組み”が、スミスの“見えざる手”の理論的支柱となっています。

参考文献

アダム・スミス(高哲夫 訳)(2020)、「国富論(上)(下)」、講談社学術文庫

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