“経済成長”について考える(3)

GDPが本当に力を発揮し始めたのは、第二次世界大戦後の復興期からといえます。第二次世界大戦は、米国以外の連合国や、敗戦国の経済を大いに疲弊させました。また、米国についても、戦時中の増産体制によって農産物や工業製品が過剰な状況となっていました。さらに、ちょうどこの時期から、資本主義陣営と共産主義陣営のつば競り合いが始まってきており、それぞれ、自分の陣営の仲間を増やすために躍起になっていました。

そうした中で、1947年には米国務長官のマーシャルが、ヨーロッパ経済復興援助計画、いわゆるマーシャルプランを発表します。これは1948年~1951年にかけて行われたヨーロッパ諸国の経済復興を助けるための資金・物資・技術・経済制度の型(自由貿易の促進)の支援で、例えば資金面では、総額102億6000万ドルに及んでいます。また、米国にとっても、自国の製造技術や経営手法を輸出することにより、欧州の産業規格が米国に近いものとなり、その後の米国製の機械や部品の輸出を有利にする土壌ができあがったほか、支援金についても用途を限定(生産に必要な機械類や生活に必要な農産物に限定)することで、実質的に米国の製品を購入するようにしていて、自国の経済成長にも繋がるようにしていました。

(注)このマーシャルプランは、(少なくとも建前上は)ソ連と東欧諸国についても支援の対象に含んでいましたが、結局、ソ連のスターリンはマーシャルプランの本質を、アメリカ帝国主義による世界支配の一環であると判断し、その受け入れを拒否しました。その他の東欧諸国についても、例えばチェコスロヴァキアは一旦受け入れを表明しましたが、ソ連の圧力で潰され、それをきっかけに共産党政権が成立したりと、最終的には全てが受け入れを拒否しました。さらにソ連は、この受け入れの件で動揺した東欧諸国を引き締めるため、1947年にコミンフォルム(共産党情報局)を結成し、1949年には経済相互援助会議(COMECON)を結成しています。それによって、その後冷戦構造は本格化していきました。

こうした中で各国はマーシャルプランの投入をフルに生かしつつ経済を立て直していくのですが、この時期からその後の高成長期にかけて、経済の両輪ということで、生産面の向上とともに、需要の安定的な上昇(もしくはふかし気味に伸ばしていくこと)が各国で至上命題となっていきます。そうした中で大きな力を発揮したのが、いわゆるケインズ主義的な財政・金融政策です。

この導入時期は国によって事情が異なるため、ずれがありますが、それでも、例えば前回紹介したケインズの『雇用、利子および貨幣の一般理論』は、主に金融政策について書いた本になる(乗数効果の話などもしているので、いくらかは財政政策の話もしている)のですが、この金融政策については、ケインズの故郷のイギリスでは1945年頃から導入しています。また、第二次世界大戦の影響が比較的小さかったアメリカでは、むしろニューディ―ル政策の頃からFRBが全米的な視点から信用(クレジット)をコントロールするように体制を整えていましたが(1935年銀行法、むしろケインズの著作は、この頃の米国の金融政策を理論として発展させている面もあるといえます)、1946年に連邦政府が経済の安定と雇用維持に法的責任を負うよう定めた1946年雇用法(Employment Act of 1946)を定め、“物価の番人”としての役割だけではなく、“雇用の安定(完全雇用)”を目指すようFRBに対して義務付けています。

フランスについても、1945年にド・ゴール政権下で中央銀行と主要な4大預金銀行が国有化されたことから、ケインズ主義的な金融政策が求められました。一方で、西ドイツとイタリアについては、戦後の経済の安定に苦労したことや、しばらくの間自由競争的な経済を推奨していたこともあって遅くなったのですが、西ドイツでは1960年代後半、イタリアでは1960年代前半位に導入されました。

一方財政政策をみてみても、英国はマーシャルプランの援助の最大の受取国でもあったことから、この時期には援助のフル投入と、一方で配給制などの緊縮政策を行っていましたが、その後は導入していますし、米国では第二次世界大戦後から導入しています。フランスでも、戦後の早い時期からディリジスム(国家主導主義)とよばれる、比較的政府の介入度の高い経済運営を行っていたため、早くから導入されました。西ドイツとイタリアについては、金融政策と同様、それぞれ1960年代後半、前半に導入されました。

このように、各国で重要な役割を果たしてきたケインズ主義的な金融・財政政策ですが、これから少しみていこうと思います。

(注)因みに、イギリスの配給制は、やはりケインズが1940年にだした『戦費調達論』の中で、家計の貯蓄の一部を強制的に吸い上げ、インフレを抑制するとともに、戦費に充てるべきと指摘しているのですが、この影響を受けていると考えられます。配給制を行うと、いくらお金を持っていても、クーポンがなければ買うことができないため、インフレの抑制に役立ちます。戦後のマーシャルプランについても、やはりインフレの抑制といった効果があったと考えられます。

実際に細かくみていくのは次回にしようと思うのですが、少しイメージを持つため、『雇用、利子および貨幣の一般理論』の話を例にみてみましょう。この本の核になる考え方は、雇用に関する考え方です。古典派経済学の世界では、労働需要と労働供給は市場の原理に任せておけば必ず完全雇用(働く意思と能力のある人が皆働いている状態)の水準で均衡するとされています。それは賃金が調整されるためです。ケインズ自身も、基本的にはゴリゴリの古典派経済学者なのですが、ちょうど1930年代の大恐慌を目のあたりにし、その理論では、現在の状況には全く対処できないではないか、という考えから理論を構築しました。

変更点は大きく2つで、1つは賃金のことなのですが、賃金は決して無限に伸縮的というわけではなく、ある所から下には下がらないという考えを持っています。このため、労働需給が完全雇用の水準に均衡しないというわけです。

もう1つは少し地味なのですが、労働供給曲線についてです。古典派経済学では、企業の労働需要、労働者の労働供給ともに実質賃金をみて決めているとしています。ケインズの一般理論でも、企業の労働需要については、同じように実質賃金をみているとしています。つまり、企業は価格を設定する側でもあるので、価格を高く設定している時には、同じ名目賃金に対してでもより多くの労働力を需要できるというわけです。一方で労働者については、古典派経済学と違って、名目賃金をみて労働供給を決めているとしています。一般理論の言葉を借りると、

“労働者は通常貨幣賃金の引き下げには抵抗するけれども、賃金財貨の価格が上昇するたびごとに労働を撤回するというのは彼らの慣行ではない(『一般理論』第2章2節)”

といっていて、つまり、名目賃金が現状のままなのに、物価が上がったといって働かなくなるということは、実際には起こらないということです。

因みに、古典派経済学の世界でも、失業は存在するわけで、一般に自発的失業と摩擦的失業といわれています。ただ、ケインズは大恐慌のような経済状況を観察していると、これらとは全く別の、経済状況によって非自発的に失業させられてしまうようなケースが存在し、そういったものに対しては、新しいアプローチが必要であると考えたわけです。

図1. 古典派とケインジアンの違い(左:古典派、右:ケインジアン)

こうした古典派の考え方とケインズの考え方を図にしたのが図1になります。右側のケインズの考え方の図をみると、縦軸が名目賃金になっていることがわかります。また、名目賃金は最初ずっと一定の状態が続いており、このため、この区間では労働需給が完全雇用の状態で均衡しません。

ケインズやケインジアンの人たちの考え方というのは、この部分の失業を政府の力でなんとかなくそう、また場合によっては更に均衡の賃金を引き上げていこうというものです。これはどうすればいいのか、ということになるのですが、今、縦軸が名目賃金というのがミソで、実はインフレになればいいのです。

インフレで価格がより上がった状態というのは、名目賃金がずっと一定の状態であれば、実質賃金は低下することになります。企業の労働需要については、一般理論でも古典派同様実質賃金をみて決めるとしているため、労働需要量は増えていき、労働需要曲線は右にシフトしていきます。完全雇用の状態になってからは、今度は価格が上がっているときには名目賃金が上がっているので、やはり労働需要曲線は右に動いていることになります。

因みに、今はインフレと賃金上昇の順番をあやふやに書きましたが、一般理論で想定されている政策波及効果としては、雇用量・賃金→インフレという順番です。これについては、先ほど賃金があるとことから下がらないというケインズの考え方を述べましたが、実は価格についても、ケインズは経済の調整役として不十分なほど、なかなか下がらないと考えています。

つまり、不景気なのに価格が下がらない場合、それは売れる個数が減ることになり、つまりそれは生産個数が減ることになるので失業が増え、そのことがさらに需要を減らすという考え方をしています(ただ、価格が低下する場合についても、このことは借金を抱える企業・個人の負担が実質的に重くなったり、“もっと安くなるかも”という期待から買い控えや設備投資の先送りが起こるから、これもヤバいですということもケインズは言っているので、どちらにしても結局ヤバいという話になっているのですが…)。

このため、ケインズやケインジアンの人たちは、とにかく先ずは個数優先で需要を増やすことが必要で、それにより生産が生まれるので雇用を増やすことが必要、そしてそうすると企業としては価格をあげていく(経済全体でインフレになっていく)、さらに完全雇用の状態になったあとは、それでも増える需要に対応するため労働力の獲得競争やよりハードに働いてもらうために、今度は賃金が上がっていく、さらに価格を引き上げていくということになります。

このために必要になる政策というのが、財政・金融政策ということになるのですが、一般理論の中では、特に金融政策に関連する話を基本軸に、様々な話を展開しています。

では、次回はより具体的にみていこうと思います。

参考文献

Keynes, John Maynard(1936).The General Theory of Employment, Interest and Money. London :Macmillan.

Keynes, John Maynard(1940). How to pay for the war, in The Royal Economic Society (1972) The Collected Writings of John Maynard Keynes, IX Essays in Persuasion, London: Macmillan, VI-2, 367–439.

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