アダム・スミスの“国富論”第2篇は、“資本”という概念を経済学の中心に据えたパートです。
第1篇で“分業”が生産力を上げると説いたスミスは、この第2篇で、その分業を進めるためには“あらかじめ蓄えられた資本”が必要であると論じています。主要なポイント5つについて、以下でみていこうと思います。
1.資本の種類(資材の区分)
スミスは、個人や社会が持つ蓄え(資材)を3つに分けました。
・消費のための資材: すぐに食べてしまう食料や服。利益を生まないもの。
・固定資本: 機械、道具、店舗、あるいは人間の技能(人的資本)。所有者の手元に留まったまま利益を生むもの。
・流動資本: 原材料、製品在庫、そして貨幣となります。売買によって所有者の手から離れることで利益を生むもの。
2.貨幣という特殊な資本
スミスは貨幣を“社会の維持費”と捉えました。貨幣自体は食べられず、何も生産しません。
彼は貨幣を“道路”に例えました。道路は商品を運ぶために不可欠ですが、道路の上に穀物が実るわけではありません。
そのため、高価な金銀貨よりも、維持費の安い紙幣(銀行券)をうまく活用することで、浮いた金銀を生産的な資本に回すべきだと主張しました。
3. 資本の蓄積:生産的労働と不生産的労働
ここが第2篇のハイライトです。スミスは“豊かさの源泉は蓄積にある”とし、労働を2つに分けました。
生産的労働: 価値を物に固定し、資本を増やす労働(例:製造業の工員、農民)。
不生産的労働: 価値を後に残さない労働(例:家事奉公人、公務員、軍人、俳優)。
節約の重要性: スミスは“節約こそが資本を増やす唯一の道”だと説きました。浪費は資本を食いつぶす“社会への敵“であり、節約家こそが“社会の恩人”であるという道徳的な評価も含まれています。
4. 利子を生む資本
資本を自分で使わずに他人に貸し出す場合、その報酬が利子です。スミスは、利子率は“通貨の量”ではなく、“貸し出し可能な資本の量”によって決まると考えました。
また、法律で無理に低い利子率を設定すること(利子制限法)には否定的でしたが、あまりに高い高利貸しは資本を破壊するとも警告しています。
5. 資本の投下順序
最後に、資本をどこに使うのが最も効率的かを論じました。スミスが推奨した順序は以下の通りです。
農業: 自然の力も加わるため、最も生産性が高い。
製造業: 多くの労働者を雇い、価値を付加する。
国内商業: 国内の流通を活発にする。
外国貿易: 余ったものを輸出する(最後で良い)。
当時の重商主義(輸出こそが正義とする考え)とは真逆で、“まずは足元の農業から”という自然な順序を強調しました。
もう1つ、“国富論” 第3篇についてみてみましょう。第3篇は、前篇までの理論的な分析とは少し趣が異なり、“歴史学・経済史”の視点から書かれています。
第2篇でスミスは、資本は“農業 → 製造業 → 外国貿易”の順に投下されるのが自然で最も効率的だという理論(自然な進歩の順序)を述べました。しかし第3篇では、“実際のヨーロッパの歴史は、なぜこの理想的な順番とは逆(不自然な順序)に進んでしまったのか?”という謎解きをしています。
1. “自然な進歩”の理想
スミスは、人間には“まず自分の近くを豊かにしたい”という本能があると考えました。
農業(農村): 食料という生存基盤を作る。最も確実でリスクが低い。
製造業(都市): 農村の余剰物資を加工する。
外国貿易: 国内で余ったものを外に売る。
これが本来あるべき“自然な順序”です。しかし、中世以降のヨーロッパはこの順番が狂ってしまいました。
2. ローマ帝国崩壊後の混乱(農業の停滞)
ローマ帝国が滅亡した後、ヨーロッパは蛮族の侵入により荒廃しました。
大土地所有制: 土地は一握りの有力者に独占され、さらに“長子相続制”によって土地が細分化されず固定されました。
農奴制: 耕作者(農民)は自分の土地を持てず、働いても利益を搾取されるだけだったので、生産性を上げる意欲を失いました。
これにより、本来第一に来るはずの“農業”が長く停滞してしまったのです。
3. 都市の台頭と自由
農業が停滞する一方で、都市(商工業者)は王権と結びつくことで、封建領主から自由を勝ち取りました。
都市の住民は、領主の支配を逃れて商売を行い、資本を蓄積しました。
こうして、農村が豊かになる前に、先に「都市の商工業」が発展するという、理論とは逆の現象が起きました。
4. 商工業による「農村の革命」(逆転劇)
ここが第3篇で最もドラマチックな部分です。都市で発展した外国貿易や高級製造業が、結果として遅れていた農村を近代化させたという指摘です。
領主の没落: 都市から贅沢品(宝石や高級家具)が入ってくると、封建領主たちは自分の権力を維持するための軍隊(家来)を養うのをやめ、その金を贅沢品に使い始めました。
権力の移転: 贅沢品を買うために、領主は農民に長期の借地権を与えて年貢を安定させようとしました。その結果、農民は自立し、封建的な主従関係が崩壊しました。
秩序の導入: 商業の発展により、恣意的な暴力が支配する社会から、法と統治(ルール)が守られる社会へと変化しました。
参考文献
アダム・スミス(高哲夫 訳)(2020)、「国富論(上)(下)」、講談社学術文庫
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