次は、金融政策の効果を考えてみようと思います。閉鎖経済における財市場の均衡条件は
Y=C(Y)+I(r)+G
貨幣市場の均衡条件は
M/P=L(Y,r)
となります。Yは国民所得、rは利子率です。ここで、財市場と貨幣市場が同時均衡する点を(Y*,r*)とすると、
Y*=C(Y*)+I(r*)+G
M/P=L(Y*,r*)
となります。この状況で、実質マネーサプライをΔ(M/P)だけ変化させ、それによって国民所得と利子率がΔY、Δrだけ変化したとすると、
Y*+ΔY*=C(Y*+ΔY)+I(r*+Δr)+G
M/P+Δ(M/P)=L(Y*+ΔY,r*+Δr)
となり、また金融政策の乗数効果(金融政策乗数)はΔY*/Δ(M/P)と定義されます。
ここで、消費関数として、ケインズ型のC(Y)=c0+c1(Y-T)(c0>0、0<c1<1)を置き、投資関数として、I(r)=i0-i1r(i0>0、i1>0)を置き、さらに貨幣需要関数をL(Y,r)=kY-hr+L0(k>0、h>0、L0>0)とします。この場合、財市場と貨幣市場の同時均衡は
Y*= c0+c1(Y*-T)+ i0-i1r*+G
M/P= kY*-hr*+L0
とかけ、ここからY*、r*が
Y*=(h(c0-c1T+i0+G)-i1(L0-M/P))/(ki1+h(1-c1))
r*=(k(c0-c1T+i0+G)+(L0-M/P)(1-c1))/(ki1+h(1-c1))
となります。ここから、金融政策乗数は、
ΔY*/Δ(M/P)= i1/(ki1+h(1-c1))
となります。因みに、M/Pが増えることで、利子率r*がどうなるのかというと、
Δr*/Δ(M/P)=-(1-c1)/(ki1+h(1-c1))<0
となり、金融緩和によって均衡利子率は低下することがわかります。
さて、この時、利子率に対する投資の感応度のパラメータであるi1が増加する時に、金融政策乗数がどうなるのかをみてみると、
(Δ/Δi1) i1/(ki1+h(1-c1))=h(1-c1)/(ki1+h(1-c1))2>0
となり、i1が大きくなると、金融政策乗数が大きくなることがわかります。直感的にも、利子率の低下に対して、i1が大きい場合ほど、投資の増加が大きくなるので、非常に納得がいきます。
次に、貨幣需要の金利変動に対する感応度であるhが増加するときについてみてみると、
(Δ/Δh) i1/(ki1+h(1-c1))=-i1(1-c1)/(ki1+h(1-c1))2<0
となるので、hが大きい場合には、金融政策乗数は小さくなることがわかります。これがなぜかを考えてみると、hが大きいということは、利子率の変動に対して、貨幣需要の変動が大きくなるということになります。先ほど、貨幣供給量を増やすと利子率は低下するといいましたが、このメカニズムというのは、まず貨幣供給量を増やした時に、貨幣需要がそこで変わらなければ、その貨幣は債券に向かうことになり、そして、それは債券価格を引き上げるのですが、そのことは利子率を低下させることになるわけです。ただ、上の式をみる限り、利子率が低下すると貨幣需要も増えるわけで、それはなぜかというと、利子率の低下が投資を刺激し、そして国民所得が増加することになるため、それによって貨幣需要も増えることになります。一方で、それはその分債券需要の低下、債券価格の低下、そして利子率の上昇に振れることになります。これは一般にクラウディング・アウトと呼ばれている効果ですが、ここまでの話を踏まえると、この効果はhが大きくなるほど大きくなります。そのため、hが大きいほど、金融政策乗数は小さくなってしまいます。
この極めつけがhが無限大の場合、つまり利子率に対する貨幣需要の感応度が無限に大きくなる場合で、この時金融政策乗数は、
i1/(ki1+h(1-c1))→0
となります。つまりこの場合、完全なクラウディング・アウトがおこって、金融政策が完全に無効になります。このような状況は、有名な“流動性の罠”と呼ばれる状況になります。
一方で、hがものすごく小さい、つまり0になる時には、金融政策乗数は
i1/(ki1+h(1-c1))→1/k
となり、この場合には、クラウディング・アウトは全くおこらず、金融政策の効果は最大になります。このケースは、古典派の長期のケースになります。
最後に、国民所得Yの増加に対する、貨幣需要の感応度であるkが増加する時に、金融政策乗数はどうなるのかをみてみたいと思います。この場合には、
(Δ/Δk) i1/(ki1+h(1-c1))=-i12/(ki1+h(1-c1))2<0
となり、kが増加すると、金融政策乗数は小さくなることがわかります。これはなぜかというと、やはりクラウディング・アウトが原因となります。つまり、先ほどもみた通り、国民所得が増加すると、貨幣需要が増え、それは債券需要の低下によって賄われることから、債券価格は低下し、利子率は上昇するわけですが、Yの増加に対する貨幣需要の感応度であるkが大きい場合には、この効果が大きく出てしまうため、より大きくクラウディング・アウトがおこり、金融政策乗数は小さくなってしまいます。
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